全部お前の所為だ




何にも変えがたい大切なもの、或いは人。
そんなのは誰にだってあるものなのだろう。
俺にとってはまさに旦那がそれだ。
旦那が悲しんだりするのは絶対見たくないし、壊れていく姿なんてもっての他だ。
旦那にもそういう存在がある。
ちょっとしたことで壊れてしまいそうで、そのくせ誰よりも真っ直ぐなその心に、抱えきれないほどたくさんのその存在。
前の俺だったら、自分もそのなかに入ってるんじゃないかと自惚れていただろう。
だけど、今はどうだ?


・・・・俺がそのなかに入ってることは、ない。


あんなにあからさまに避けてしまったのだ。
自業自得の結果とも言えよう。
我ながら情けない話だ。
身を引くと決めたくせに、まだ旦那を忘れられていない。
あまりの情けなさに笑ってしまう。


ふと上を見れば、あんなにも晴れ渡っていた空が、いつの間にか機嫌を悪くしていて、今にも雨が降ってきそうな感じだった。
このまま降りだしてしまえばいい。
そして、行き場の無いこの想いを一緒に流して欲しい。

しばらくすると、俺の心情を読み取ったかのように雨は降りだした。
俺は、濡れるのも構わず、屯所の庭に立ち尽くした。
だけど、どれだけ時間が過ぎても俺の心が晴れることはなかった。


「何でィ。一緒に流してくれるんじゃなかったのか」


ポツリと呟くと、


「何をだよ」


という声が聞こえた。
振り替えるとそこには


「土方さん・・・・」


恋敵が立っていた。
いや、既に旦那の心は土方さんのものだから恋敵にすらなれなかったのか。
思わず笑ってしまう。
そんな俺に、土方さんは眉を寄せた。


「何がおかしいんだよ」

「何一つ満足に出来ない自分を笑ってるんでさァ」


俺の言葉に土方さんは更に深く眉間に皺を寄せた。


「どうしてでしょうねィ」

「あ?」

「どうして、肝心なところが上手くいかねぇんですかねィ」

「知るか」

「ま、なんでも手に入る土方さんにはわかりやせんか」

「さっきから何なんだ、変だぞ、お前」


変?何なんだ?
それをアンタがいうんですかィ。
紛れもなく原因はアンタだっていうのに。
俺は、視線を土方さんへと向けた。
途端、土方さんの目が少し開いたから、相当酷い顔をしていたのだろう。
きっと負け犬の顔していたんだ。
そう思ってた俺は、次の土方さんの言葉に驚いた。


「何で、そんな泣きそうな顔してんだよ」











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