遠ざけてごめんなさい



あ、旦那だ。


巡察していた俺は、少し先に見慣れた銀色を見つけた。
その姿を見ると、胸が締め付けられる。

身を引く。

そう決意したからといって、すぐ忘れることができるわけもなく、俺は暫く旦那を見つめていた。
すると、俺の視線に気付いたのか、旦那は此方へむき、微笑んだ。

「・・・・・っ」

思わずドキッとしてしまった。
こんなんじゃ忘れられる日なんて来ないんじゃないか・・・。
ハァ、と俯き気味で溜め息を吐くと、

「どうしたの、溜め息なんか吐いちゃって」

という声がすぐ近くに聞こえた。
驚いて顔を上げれば、目の前には旦那の顔があった。

「だっ旦那?!」

「おーおー珍しく動揺してるじゃねぇか。そんなにビックリしたか?」

きひひ、と笑う旦那に、悔しさを覚える。
「別に・・・顔を上げたら可哀想なくらいのマヌケ面が近くにあって哀れんだだけでさァ」

思ってもないようなことを言い返せば、旦那は面白いくらいに食い付いてくる。

「哀れんだってなに?!明らかに驚いてたでしょ?!大体銀さんだって好きでこの顔に生まれてきたわけじゃないからね!!サラサラな髪してるからって調子に乗ると痛い目にあうよ!!」

相変わらず旦那の勢いには感心してしまう。
といっても表情にはださないけど。
旦那が一頻り言い終わる頃にはいつも通りの俺に戻れていた。

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無表情な俺に、旦那はめんどくさそうに頭を掻くと、


「ま、なんか悩んでるんだったら聞いてやるよ。パフェ3つでな」

「・・・見返りを求めるんですかィ?」

「だって最近パフェ食べれてないしぃー」

そう言いながら笑う旦那に思わず手を伸ばしてしまう。
頬に手を添えれば、旦那は不思議そうに俺を見る。

「・・・・?」

ちゅっ

「え・・・・・」

気がつけば、キスをしていた。
触れるか触れないかぐらいのキス。

「えっと、沖田くん?」

旦那の呼びかける声にハッとする。
そして、自分のしてしまったことに気づき、顔は一気に青ざめた。
目の前には、困ったような顔をした旦那。
そんな旦那を見た俺は、踵を返して走った。


「沖田くん・・・!!」


後ろから旦那の呼ぶ声が聞こえたが、止まれなかった。
ただ、ひたすら走る。

今、俺はなにをした?
身を引くんじゃなかったのか・・・?
旦那の幸せを願うんじゃなかったのか・・・?!

後悔の嵐が俺を苛む。

旦那の顔が近くにきただけであんなことをしとしまった。
それくらい限界が来ていたのか・・・?

・・・もう、旦那の近くにはいかないほうがいいのかも知れない。

このまま近くにいたら、また繰り返してしまうかもしれない。

張り裂けそうなくらい痛む胸を押さえ、俺は決意した。



旦那にはもう近付かない。










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