あんたが口にしてくれないなら、いらない
「・・・何?」
少し冷たい声音に悲しくなる。
「これから屯所に来やせんか?」
「なんで?」
「ケーキ買ったんでさァ。旦那と一緒に食べようと思ってねィ」
そう言ってケーキの箱を見せる。
すると旦那は、考える間もなく
「やめとく。今はケーキの気分じゃない」
「・・・そうですかィ」
旦那が甘味を断るなんて何かあったのだろうか。
聞きたいけどきっと俺が聞いていいことじゃない。
必要のなくなったケーキを恨めしく眺めた後、俺はそれを投げ捨てた。
「沖田くん?!」
旦那は、これでもかっていうくらい目を見開いて俺を見る。
「あんたが口にしてくれないなら、いらない」
「え・・・?」
ポソッと呟いたのを聞き取れなかったらしく、旦那は不思議そうに俺をみた。
そんな旦那にもう一度繰り返す。
「あんたが口にしてくれないなら、いらねェって言ったんでさァ」
「・・・そっか」
申し訳なさそうにする旦那に、俺は言った。
「また今度、買ってきやす。そのときは一緒に食べやしょう」
「あぁ、約束する」
旦那と今度は一緒に食べるという約束をした俺は、踵を返した。
別に旦那といられればなんだっていいんですけどねィ・・・。
そんなことを考えていた俺は、思い出したように旦那の方に振り返った。
旦那は、不思議そうにしている。
「・・・旦那が何をずっと背負ってきたかなんて聞きやせん。それはきっと、俺じゃあ
癒せない傷なんでしょィ?だから、聞きやせん。だけど、旦那には幸せであって欲しいんでさァ。だから、そんな冷たい顔しないでくだせェ・・・」
「・・・!」
旦那は驚いたように俺を見た。
そして、不器用に笑うと、
「ありがとな・・・」
と言った。
そんな旦那に今までずっと胸に秘めてきた想いが、溢れそうになった。
《旦那のことが、好きでさァ》
誰にも言えないような想い。
言ってしまえばこの関係が崩れてしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。
ギリギリのとこで気持ちを押し止めた俺は、口が滑る前に去ることにした。
あぁ、いっそ全てを吐き出して消えてしまおうか。
そんなことを考えた自分を静かに笑いながら屯所へと足をはこんだ。