変な顔しないで、笑顔を見せて
「俺は、結局その程度だったんだよ、きっと」
その顔は、苦笑に近い笑みを浮かべている。
「想いを告げて、お前と話せなくなるのが怖かった。恋人になれないことを分かってて友達という場所を手放す勇気がなかった」
土方くんの手が、俺の頬を優しく撫でる。
「俺は、臆病者なんだ」
そう言いながら、笑う土方くんに、俺は泣きそうになる。
「違う。俺が悪いんだ。俺が、中途半端なことをしたから・・・。俺は卑怯ものだ」
そう言う俺に土方くんは首を横に振った。
「お前は悪くねぇよ、誰も悪くないんだ。・・・・なぁ万事屋」
「なに・・・?」
「これからも、今まで通り接してくれるか?」
「・・・・・!!!」
この男は、土方くんは、酷いことをした俺とまだ普通に接してくれるというのか。
あまりにも優しすぎるその言葉に、俺は堪えきれず涙を溢した。
「なんで・・・っ、てめぇはそんなに優しいんだよ・・・・っ」
そう言うと、
「優しくなんかねぇよ。これは我が侭だ。言っとくが俺は諦めたわけじゃねぇからな。隙あらば狙ってやるから覚悟しろ」
と言いながら、俺の頭をくしゃっと撫でた。
それが優しいのだと言っても無駄だろう。
「引き留めてすまねぇ。早くいってこい。上手くいったら今度酒奢れ」
「そんな金ないんですけど」
「ははっ、そうだったな。じゃあ祝いってことで奢ってやるよ、万年金欠さんよ」
「・・・・たっかい酒飲ませろよ」
「わーった、わーった。」
不器用な笑顔に胸が締め付けられる。
「ほら、行ってこい」
背中をトン、と押され、少し前のめりになる。
思わず振り返ろうとしたその時、
「振り替えるな!!!」
「っ、」
土方くんの大きな怒鳴り声に肩を震わせた。
「今は振り返らないでくれ・・・。お前にはそんな顔より笑顔が似合うんだよ。俺なら大丈夫だ。そんなに柔じゃないんでな。だから、」
「笑って」
「・・・・・・・!!!」
振り返らなくてもわかる。
土方は今、涙を流してる。
声は震え、それでも必死に紡いでくれたその言葉に、俺は唇を噛んだ。
「土方くん・・・」
「・・・・・」
「ありがとう」
返事は、なかった。
だけど何となく分かった。
土方くんは、きっと微笑んでくれている。
俺の都合のいい妄想だと言われたら、何も言い返せないが、そんな気がしたんだ。
俺は、ようやく一歩踏み出した。
目指すは、愛しいあの人のところ。
今から行くから
「待ってて、沖田くん・・・」