高2の冬、俺のもとへ家庭教師がやってきた。
そいつの名は坂田銀時。
面倒くさそうに差し出された手が気に食わなくて、叩いてやった。
ここでニヤ、と笑えば大抵のやつは顔をひくつかせるのだが、そいつはちがった。
同じようにニヤっと笑ったあと、何もなかったかのように勝手に自己紹介を始めたのだ。


「名前はさっきも言ったけど、坂田銀時でっす。好きな食べ物はパフェとー、いちご牛乳とー、アイスとー―・・」


延々と好きな食べもの―全部甘いものだ―を語り続けるそいつを前に、俺の世界はぐるっと一回転した(気がした)。

そいつは俺の姉ちゃんの旦那―つまり義兄―の知り合いらしく、基礎すらまともに出来ない俺を見て呆れた義兄が取っ組み合いの喧嘩をしながら頼みにいったんだと姉ちゃんに聞かされた。
人にものを頼むのに取っ組み合いの喧嘩で大丈夫なのかとは思ったが、それがいつもの二人なのだと姉ちゃんが笑ってるから大丈夫なのだろう。


「まったく、土方くんも人使いあらいよねぇ。あんなでよくミツバを捕まえられたな」


グチグチ言いながらも俺に基礎を教えようとするあたり、きっとお人好しなんだ。
俺は、その日の分が終わる頃、そいつを旦那と呼ぶことにした。
何でそんな呼び方なの、と不思議そうにされたがそう呼びたいものは呼びたいのだ。
なんかこの人、懐深そうだし。
財布は空っぽだけど―さっきこっそり盗んだ時に見た―。
きっと旦那は他のやつにもこうなんだろうな。
いいねェ。気に入った。
それからというもの、旦那はしっかり基礎を教えに来てくれて、問題が解けると嬉しそうに俺の頭を撫でた。
おやつよ、と姉ちゃんがお菓子を持ってくれば、小さい子供のように顔を輝かせる。
少し意地悪して旦那のお菓子に手を出せば、五月蝿いくらいに怒った。
コロコロと変わる表情が楽しくて、もっと見ていたくて、気付けば俺は、旦那が来る日を楽しみにしていた。
ここまでくれば自分が旦那に抱いている感情がなんなのかくらいわかってしまう。
好き、なのだ。ラブ的な意味で。
分かってしまえばあとは自由にやればいい。
俺は、旦那が来る度に押して押して押しまくった。


「旦那ァ、俺の恋人になってくだせェ」

「あー、はいはい。学年一位とれたらな」


全く相手にされないが、それでめげる俺ではない。
むしろそんなところも好きだ。
・・・けど、さすがにそろそろ何か起こっても良いと思う。
俺が好きだって言ったら頬を赤く染めるとか。
ちょっとツンデレちっくになるとか。
いつまでたってもこれじゃあ盛り上がるものも盛り上がらない。
こんな恋愛ゲームがあったら即廃盤ですぜ。


「あら、十四郎さん。ネクタイが曲がってるわ」

「こうか?」

「貸してください」


あぁ、イライラする。
幸せそうなツラしやがって、土方コノヤロー。
姉ちゃんが幸せそうにしているのは嬉しいが、土方さんがデレデレしているのは面白くない。
俺は、手元にあった辞書を土方さんに向かって投げた。
辞書は角から土方さんの頭へ落ちていき、クリティカルヒット。
ざまあみろ。鼻で笑うと、姉ちゃんに怒られた。ますます面白くない。
イライラしながらペン回しをしていると、隣から笑い声が聞こえた。
見れば旦那が腹を抱えて大爆笑している。
大爆笑してる姿は初めてみるなあ、なんて思いながら眺めていると、笑いが収まってきた旦那はいきなりグイッと俺を引っ張った。
突然のことに踏ん張ることも出来ず、なだれ込む俺。
必死に旦那の方を見ると、旦那はフッと笑った。
そして距離は一気に近づき、・・・・え?
再び旦那を見る頃にはその距離は離れてしまっていた。
俺、今旦那に・・・


「キス、しちゃった」


悪戯が成功した子供のように笑って見せる旦那にくらっとする。
そのまま呆然としていると、旦那はまた笑い出した。


「・・・・旦那」

「なんだよ」

「好きでさァ」

「土方くんとミツバが仲良しなのを見て羨ましがるようなガキには興味ねぇよ」


クスクス笑う旦那。
この人、完全に面白がってんな。
なんでィ。人をからかいやがって。
イラッと来て今度は教科書の山でも投げつけてやろうかと動いた時、旦那はニヤニヤしながら口を開いた。


「坂田銀時。ピッチピチの二十代でっす。綺麗でボインなお姉さんが大好きで、爆乳を揉みしだいた経験は数知れず」


・・・また自己紹介かよ。
興味もないことをベラベラしゃべるんじゃねぇや。
俺は着々と教科書を積み上げていった。
旦那は旦那で、淡々と自己紹介をしている。なんなんだこの人。
一頻り積み上げてさあ投げるぞと教科書の山を持ち上げた。
と、同時に自己紹介は好きな食べ物に入った。


「好きな食べ物はぁ、パフェとー、イチゴ牛乳とー、」


はいはい。
それはもう聞きやしたって。
俺はため息を吐いて、投げる体制に入った。・・・・その時


「んでもって、一番の大好物は沖田総悟くんです」


バサッバサバサッ
持ち上げていた教科書が全て落ちた。
金縛りにあったかのように体が動かない。
俺が固まっている間も、旦那は相変わらずニヤニヤしていた。


「旦那」

「今度はなに」

「一位、絶対とってみせますぜ」

「プッ、まあ頑張れや」


先は前途多難である。






End





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上野真知様へ!
遅くなってしまって申し訳ないです・・・。
こんな感じでいいでしょうか?
このサイトではどちらかと言えば銀さんが総悟に振り回されてることが多いので、今回は総悟が銀さんに振り回されてる感じにしてみました!
振り回されて焦る銀さんも好きですが、大人の余裕しゃくしゃくな銀さんも好きなんです(笑)
こんなでよかったらもらってやってください!
涙なみだ涙の続きも頑張って書きますね!
2012.01.03 華音



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