「大丈夫ですかィ?銀時さん」

「おえぇ、無理。銀さんギブ」


休日の昼時、俺は吐き気と共に遊園地のど真ん中でしゃがみこんでいた。
周囲の視線が体に突き刺さるが、そんなものを気にしていられる余裕はない。
吐き気の原因はごく単純で、ただの乗り物酔いだ。
連続で絶叫系に乗り、嫌がらせのごとくお化け屋敷に連れ込まれたのだから俺は悪くない。
別にお化けが怖いとかそんなんじゃないからな!
で、俺をこんなにした張本人、我が家のじゃじゃ馬娘は悪びれもなく俺の目の前で仁王立ちしていた。

「もうギブアルか?銀ちゃんだらしないネ!」

腰に手を当てそう言い放つ神楽に少しばかり殺意を覚える。
大事なことなので二回言うが、俺は悪くない。
わざとらしくデカイ溜め息をついた神楽に、俺も同じようにデカイ溜め息で返してやった。

「それにしても、大丈夫ですか?銀さん」

遠慮がちに俺の顔を覗き込んでくる新八が今は天使のように見える。
無言で顔を横に振ると、頭を撫でられた。

「どうしようね」

「銀ちゃん置いて私たちは引き続きアトラクションコンプリートを目指すネ!」

「薄情だな、オイ!そんなわけにいかないでしょうが!」

わーぎゃー言い合う二人をぼんやり眺めながら、さすがに情けなく思ってると、今まで俺の背中をさすっていた総悟が口を開いた。

「チャイナ、メガネ、なんか飲み物買ってきてくだせェ」

「嫌アル!何でお前に指図されなきゃいけないアルか!」

「父上の言うことは聞かなきゃダメですぜ」

「こんなサド野郎パピーにした覚えないネ!」

「じゃあ父上じゃなくてもいいから買ってきてくだせェよ。銀時さんのために」

「銀ちゃんの、ため?」

「飲み物片手にゆっくり休めば良くなるかと思ったんですけどねィ」

「…………」

急に黙り込んだ神楽に新八がオロオロしだす。
束の間の沈黙のあと、神楽はバッと顔を上げて新八の腕をつかみ、走り出した。
新八の情けない悲鳴があたりに響く。
そんな二人を見送って、俺は小さく笑いを溢した。

「可愛いだろ、うちの子」

「………俺の可愛さには負けやすけどね」

くすくす笑うと、総悟は口を尖らせた。

「俺の旦那さんは可愛いですねー」

なんて言いながら頭を撫でると、手をガシッと捕まれ阻止された。「子供扱いしないでくだせェ」

「してねぇよ?」

「しやした」

ムスッと言いながら文句を言う。
そんなところが可愛いのだと言ったらまた拗ねるんだろうな。
ほんと、可愛い。
クスと笑いを溢すと、ちゅ、と軽くキスされた。
驚いて顔をあげると、したり顔の総悟と目があう。
さっきの不機嫌そうな態度はどこへやら。何も言えず口をパクパクさせてると、神楽たちが帰ってきた。

「銀ちゃん!買ってきたアル!」

「お、おう」

「沖田さんの分もあるんですよ」

「ありがとな、眼鏡」

「いや、沖田さんの分も買おうと言ったのは神楽ちゃ…」

「シャラップ!!」

「ぐはっ!?」

真っ赤な顔をした神楽が新八にチョップを入れる。
あえなく撃沈した新八を横目に総悟は目を見開いたまま固まってた。

「…お前も、家族アル」

ポソッと呟いた神楽に、俺は自然と笑みがこぼれる。
優しく頭を撫でてやると、猫のように目を細め擦りよってきた。

「ありがとな」

もらったジュースを見つめながら言う総悟に、神楽はふてくされたような顔をする。
照れ隠しなのはもうバレバレだ。

「銀ちゃん泣かしたら潰すからな」

「泣かせるわけねぇだろィ。何より大切なお人だぜ」

「なら、いいアル」

心なしか優しい顔をしている総悟に、また笑った。

「銀ちゃん!早く復活するアルよ!アトラクションコンプリートは譲れないネ!」

「はいはい。その前に新八起こせよな」

仕方ないから、もう少しくらいは絶叫系も我慢してやるか。
俺はジュース片手にそっと総悟に寄りかかった。


End


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三郷さまに捧げます。
遅くなってしまって申し訳ないです。
お気に召していただけるか心配ですが…よかったらもらってやってください!


2012.05.03 華音



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