「旦那、花火やりませんかィ?」


万事屋に勝手に上がり込んできた沖田くんの第一声は、それだった。


「いやいや、人ん家上がり込んだらまずはお邪魔しますだろうが」

「お邪魔しまさァ」

「遅ェよ」


沖田くんが勝手に上がり込んでくることなどは実は日常茶飯事に行われていることで。
このやり取りも既にお決まりのってやつだ。
毎回沖田くんは神楽のいないときに来るのだから、なんてタイミングのいい。
きっと神楽が遊びにいく時間とかをもう把握してんだろうな。
そこまでして会いに来てくれるのは、何だか気分がいい。
あ?新八?
アイツは沖田くんにお茶、俺に苺牛乳出したあと買い物っつって家を出るんだぜ。
まったく、出来た子だよ。うちの子は。


「で、花火がなんだって?」

「花火やりやしょう」


手にたくさんの手持ち花火を持ってそう言ってくる沖田くん。
いや、その様子はなんだか可愛らしいんだけどよ、


「花火って・・・いま冬だろ」


そう、今は朝布団から出るのが嫌になるくらい寒い、冬なのだ。
冬の花火なんか聞いたことない。


「暦の上では春ですぜ」

「バーカ。春でもとんだ季節外れじゃねぇか。花火は夏にやるもんだろうよ」

「俺は常識を覆す人間なんでさァ」


俺がやる、と言うまで続ける気だろうか。
沖田くんは一向に引き下がる気配を見せなかった。


「どうしてそんなに花火がやりたいわけ?」


俺がそう聞くと、待ってましたと言わんばかりに口を開く沖田くん。


「どっかの店のおっさんに聞いたんでさァ」

「何を」

「この時期の花火もまた良いもんだと」


珍しく感情を表に出して、嬉しそうに語る沖田くんにドキッとする。
だから、どうしても旦那とやりたいんでさァなんてその嬉しそうな顔で言われたら俺はひとたまりもない。
卑怯だ。


「ねぇ、旦那」


花火、しやしょう?
そう言う沖田くんに、俺は頷くことしかできなかった。



End


花火してなくてごめんなさい。
たまに見せる年相応な態度に銀さんがきゅんきゅん(死語)してればいいなと思いました。



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