空の海月と籠の鳥

 



写真で知っていた父

 (直に会ったのはこないだが初めて)


数年振りに会った母

 (相も変わらずケバケバしい服と香水)


新しく腕に抱かれた妹

 (嬉しいとは思えなかった)






 





今日は、清継が煩かった。
妖怪の話しなんて、べつに聞きたくもない。
取り巻き達は彼を囃し立てるけれど。
よく聞けば、それは彼が不樣にも途中で気を失ったというだけ。


「坂本くん!君は妖怪が居ると思うかい!?」

「…………さぁ」

「はっはっは、そんなんじゃ、人生の半分以上は損しているぞ!」


お前にゃ関係ない。
口を開こうとして、後ろから奴良に塞がれた。


「やぁやぁ奴良くん!相変わらず仲が良いねえ」

「はは、は……ありがと…」

「そうだ奴良くん!今度…」


清継くーん、なんかメール来たっすよ!

その声に話そうとして居たことも辞め、自分のクラスに走っていく。
塞がれたままの口から手を下ろし。
後ろから寄り掛かる状態で居る奴良の眼鏡を取る。


「ぇっ、ちょっ…坂本くん…!!」

「…………ないほうが良い」

「っ、は?」

「…眼鏡なんて、なくていい」


外していた方が、好きだ。
そう呟いて、奴良の眼鏡をかけてみた。
きっと度が入っているから、きついだろうと思って居たのに。
二三回、付けたり外したり。

…視界が変わらない。


「…………伊達眼鏡?」

「っ、そのほうが、優等生っぽいでしょ」

「………、奴良はそのままで良いのに」


はい、と眼鏡を返して。
まだもう少しある昼休みを、睡眠で潰すことにした。
…視界が閉じる前、家長が睨んでいた気がする。








帰り道、今日は家長も一緒だ。
何時ものように奴良の席で寝ていたら、声を掛けてきた。
ぽつぽつと返事をしていたら、何時もの用事が終わったようで。

帰ろ、と掛けてきた声が何故か疑問形。
それから特に話すこともなく、靴に履き替え。
奴良と家長の前をふらふら歩く。


「………シェイク」

「うん、行こっか」

「…え、ちょっ、リクオくん?」

「どうしたのカナちゃん」

「なんでわかるの?」

「なんで…って。よく行ってるから」


ね、と笑う奴良。
ふらりと立ち寄るファーストフードの新作が今日から始まっていて。


「ぼく、バニラ!坂本くんはクランベリーヨーグルトでしょ?」

「……ん。」

「じゃぁ、あたし…チョコで」


奴良にお金を渡して、席を探す。
何時もなら寝ているはずなのに、家長と話していたお陰で眠い。
四人掛けの席に座るや否や、頭を付けて寝る体制。
お待たせ、とトレーを持って奴良が歩いてきた。


「ダメだよ、汚れてるんだから!」

「…………ねむい…」

「家に帰ったら寝なよー」

「…んー………シェイクー」


はい、と持たされて。
新作、クランベリーヨーグルト。

…甘い。

二口飲んで、バニラを飲む。
家長は驚いているけど、なんで。


「っ、勝手に飲んでるけど…」

「あぁ、ぼくはそこまで飲まないから」

「…………家長、飲む?」

「え、あ…飲んで平気なら…」

「…………も、いらない」


ずぃ、と家長に上げて。
二人が飲み終わるまで、小説を読む。
書庫から適当に取ってきた、よくわからない本。
内容は推理小説。

しばらくして、声が掛かる。
先に家長と別れて、もう薄暗くなってきた道を歩く。


「じゃぁ、気をつけてね」

「………ん、じゃ」


角を曲がって、緩やかな坂道を歩く。
見上げれば空にクラゲ。








 ⇒§




 

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