13才の夢と希望

 




あの日、初めて妖怪を見た


(妖怪だと判ったのは、人じゃなかったから)



あの日、初めて人前で泣いた


(泣いてない、泣きたくもない)



あの日、初めて人を助けた


(お人よしじゃ無いのに)















両親が、というより、母が。
父の赴任先に行った。
けばけばしい化粧と、ニオイを残して。
だから卒業式も見に来る訳もなく。
中学の入学式も、あの人達は知らない。
紙で作られた下らない花も、終わると同時に掌で潰して。
宛がわれたクラスには、奴良がいた。


「坂本くん、入学おめでと」

「……下らない大人の玩具のままだけどね」

「なんでそう言うのー」


玩具だろう。
だって、相も変わらず二人は僕を見ない。
僕より新しく生まれたらしい子供の方が、可愛いのだそうだ。
後にも先にも、連絡はその一度だけ。
それも破り捨てたから、二人が…否。
三人が今何処で何してるかなんて知らない。


「でも、同じクラスだし、これからも宜しくね」

「…………勝手にすれば」 

「うん。あ、カナちゃんも同じクラスだよ」

「………興味ない」


そう言って、奴良から離れる。
かたん、と座ればもう、と言われ。
三列隣の前から二番目の、ちょうど窓際の席に奴良が座れば。
初日のHRがはじまる。






「ね、坂本くん、一緒に帰ろ」

「……………別に」

「そうだ、今度父さんの写真見せてあげる」

「……なんで」

「あのねぇ。最近知ったんだけど、父さんと凄い似てるんだ。なんでだろうねぇ」


知らないよ、そんなこと。
そう言いたいのに、何故か口を開けなくて。
なにも考えないようにした。
その間も奴良は喋り続けていて。
これで僕がなにも聞いてなかったら、どうするんだろう。
拉致の開かないことを考えながら、校門を出る。
最寄り駅に向かいながら、なおも話しを続ける。


「でさー、おじいちゃんてば」

「…………ごめん、煩い」


いい加減、この声が耳につく。
イライラと神経を逆なでする。
目も見ずに呟けば、その足は止まる。
まるで、拒否されることを知らないように。それがまた神経を尖らせる。
見る影もなく落ち込み、口を噤む。


「……友達ごっこなら、他人とやって」

「、…ごめ、ん…」


待っていた電車がホームについた。
とん、と中に入れば。
ついて来るはずの奴良が、まだホームに立っていた。
一つため息を零す。
なんかもう、これじゃ。
拒否した僕が悪者じゃないか。
流れるアナウンスは、発車を告げていて。
咄嗟に、奴良の腕を掴んだ。


「っっ〜!?」

「…………一緒に、かえるんだろ」


ぼすん、と胸元に飛び込んでくる。
動き出した電車は、なにも知らない顔で。


「で、でも…!」

「………疲れた、着いたら起こして」

「うぇ!?ちょ、坂本くん!?」


開いていた席に座って。
早々に目を閉じて。
疲れで頭が痛い。 
伸ばしたままの髪が顔に掛かる。
ほんの少し、奴良の腕を掴んだ手が。
じわり、と熱い。
…静かに、喧騒が聞こえる。







中学生活が始まって、早一週間。
クラス委員も決まり、部活に入る人は始めているらしい。
席替えの無い今時分。
窓際の奴良の席で、毎日ひなたぼっこ。
ぼーっと外を見て、今日もなにも知らない鳥を見た。


「終わったよ、帰ろ?」

「…………ん」

「今日もよく寝てたね」

「…………ん」


誰も居ない放課後。
うとうとして、奴良に起こされる。
あの家には、帰りたくない。
ぽつりと呟いたら。
『それなら、ぼくと帰ろうよ』
にこりと笑って、言われた。
別に誰かと帰りたい訳じゃない。
そうじゃなくて、あの人が居た時のように長い時間居たくないだけで。


「…………本屋」

「うん、良いよ。…何か買うの?」

「…………本」

「あはは、うん、そうだね。ぼくも読むよ。楽しいよねー」

「……楽しくは、ない。暇潰しだから」


ガァー、と自動ドアがあく。
ほんの少し、ひやりとした空気が肌に纏わり付く。
ほ、と息をつく。
小難しい、政治の本。
簡単過ぎる、児童文学。
気持ち悪い、詩集。
為になるだろう、古典。
夏目漱石も石川啄木も。
紫式部も、清少納言も。


「坂本くんは、雑誌とか漫画は買わないの?」

「…嫌い。」

「そっか。……読むなら、暇潰しに漫画貸そうかな、って思ったんだけどね」


読まないなら仕方ないかな。
やっぱり、にこりと笑って。


「………オススメ」

「え?」

「………奴良の、オススメ」


そう言えば、丸くしていた目を途端に細くして。
今度は、くしゃりと笑う。
あぁ良かった、泣かなかった。
二作ほど勧められて。
最初の巻だけを持ってレジに向かう。


「明日、続き持ってくるね」


待ってる間に、読んで良いから。
嬉しそうに笑った。
鞄に締まって、別れる。
じゃあね、また明日。
手を振って別れる奴良に。
小さく呟いた。


「………………ごめん」








 ⇒§






 

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