1‐2

 




教室に入って、なにか違和感。
首を傾げながら何時もの席について。
ちら、と横を見た。


「…………奴良?」

「…、あぁ…おはよう、坂本くん…」

「……まだ、昨日の引きずってんの?」


うなだれた様子で。
僕が知るかぎりでは、あの一件しか無いけど。
あぁでも。
奴良は妖怪屋敷に棲んでるんだっけ。
見る影も無いくらい、落ち込んでいる奴良。


「……どうしたら、人間になれるんだろう」

「?…人間、て…、今も人間じゃん」


不思議な事を言う。
奴良は昔から時折、不思議な事を言う。
祖父が妖怪だとか、側近達も妖怪でドジだとか。
父親も半分妖怪で半分人間だって。
自分も妖怪の血が入ってるんだ、とか。


「そうじゃなくて…。ぼくは、さ」

「……別に、妖怪でも良いじゃん」

「え…?」

「どっちでも奴良は奴良でしょ」


ランドセルから教科書とノートを出して。
そのまま、窓に顔を向けて突っ伏す。
相変わらず空では、群れを成して鳥が飛ぶ。
しばらくして先生が来る。
話し半分に授業を受けて。 
頭の中は、夕飯のことでいっぱい。
何食べよう、何作ろう。
…生きるのは、こんなにも面倒臭い。






「…………バス、乗らないの」

「っ、乗る、資格なんて…」

「……資格?だったら生きるのにも資格が居るの?」


しかく。
身分とか、地位とか。
必要なこと。


「学校に来る資格も、道を歩く資格も、息をする資格も。何かを考えることも資格が居るの?」

「…、坂本くん…?」

「だったら、僕はそんな資格要らない。僕の資格を君をあげるから、早くバスに乗りなよ」


歩いて帰る。
子供の足で、二時間は掛かる家。
真っ暗になりかけていて。
けれど何故か沢山の人と、明かり。
なんかあったのかな?
近くの人に聞いてみると、トンネルで崩落事故があったんだとか。


「浮世絵小の子が乗ってるはずなんだよ…」

「助けとくれよ、お巡りさん!」


別に。
どうでもいいけれど。
この煩い中、真っすぐ帰れる訳が無い。
あぁそういえば。
奴良は乗ったのかな。
乗ってたら巻き込まれてしまったかな。
他にも、家長とか巻とか鳥居とか。
そうそう、あの清継も乗ってるはず。
……別に。
ただのクラスメイトじゃないか。


「あぁもう。………お人よしじゃ、無いんだよ…」


見付からないように。
草むらにランドセルを下ろして、一人分の穴を作る。
がりがりと、瓦礫を外しながら。
指が痛い。
血が出てるのは、判ってる。
でも…。


「…………なんで、だろ……」


なんでだか判らないけど。
行かなきゃいけない。
がらり。
開いた隙間に身体を入れて、真っ暗な中を歩く。
ちらちらと見えるのは、多分懐中電灯か何かだろう。
近付くと、彼等の前に何かがいた。


「…家長、大丈夫?」

「ぇ…、坂本くん!?帰ったんじゃないの!?」

「………人間?…違う、あれ…ようかい?」


懐中電灯に照らされた先。 
フードを被った奴らがいた。
しゃがれた、聞きたくも無い声。
家長に答えず、照らした先を見続ける。
暗闇と光に慣れてきた目は、漸く姿を映し出して。


「カカカッ、生きてやがるなぁ。そうか、死ななかったか」
「殺してやろう、じわじわ、生きながらに地獄を見せてやろう」
「三代目諸とも、死なせてやる」


「………三代目?」

「坂本くん、どうしたの?」

「……なにが」

「っ、イライラ、してる……き、キャァァァ!?」


がらがらがら。
突然響いた岩の音。
咄嗟に家長を抱えて、破片をやり過ごした。
声を上げながら入ってきたのは、人間じゃない何か。


「オホ、若ぁ!まだ生きてますぜ!!」


「………怪我は?」

「な、ない…けど……」

「ん。……清継、島、さがってな。女の子、守って」

「「ひっ…ひぃぃぃぃぃ!!」」


若、と呼ばれた、黒い浴衣の少年。
見たことのある服。
何処で見たのかは覚えてないけれど。


「……、お前…」


名前を言おうとして。
はっきりと僕の目を見て、笑った。 
小さく、頼んだ、と呟いて。






「…子供を殺して、大物ヅラか、ガゴゼよ」


歩いて帰るといったはずの、坂本が何故。
子供の足では、こんなに掛かったか。
オレの名を迷わず呼ぼうとした。
今、それを言っちゃぁいけねえ。
だから笑ってやった。
あいつが、両親から疎まれて居ることも。
望まれずに居ることも。
オレは知ってる。


「魑魅魍魎の主はなぁ。そんなちいせえもんじゃねえんだよ」


他人に興味が無いのも、興味がない振りをしているのも。
本当は、気付いてほしいだけなのも。


「世の妖怪共に伝えな!オレが魑魅魍魎の…妖怪の総大将になってやる!」


本当は。


「妖怪はオレのうしろで、百鬼夜行の群れとなれ!!」






その言葉に僕は。
何故か涙を零した。




To be next.







キミの存在、ボクの存在。









 

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