始まりの存在

 



父は、常に海外出張


(帰ってくるのは年に一度、ママの誕生日)



母は、毎夜歓楽街で嬌声を上げてる


(喉が擦り切れてしまえば良いのに)



僕は、そんな二人の子供です


(血が繋がってるなんて虫酸が走る)












「坂本くん、おはよう」

「………はよ」

「また喧嘩したの?ダメだよ、傷ばかり増やしちゃ…」

「…………別に。痛くないし」

「そういう問題じゃないよぉ、まったくもー」


小学校で。
放っておけば良いのに。
ランドセルを下ろしながら、同じクラスの奴良リクオが声を掛けてきた。
隣の席になってからは、なんだかんだと声を掛け続けられ。
正直言って、邪魔で仕方ない。
確かに、服は綺麗なのに。
傷だらけの身体は似合わない。
判ってるんだ、本当は問題が有りすぎる家庭なんだって。


「ねぇ、今度の授業参観、坂本くんのところは誰か来るの?」

「…………さぁ」

「ぼくの家はね、母さんが来るんだって!」

「…ふぅん。よかったね」


頭の中に響くのは、昨日プリントを見せた母の声。
目の前で破り、ごみ箱に入れて。
短めの髪を無理矢理掴んで、僕を引き倒して。
そのまま気が済むまで叩いて、殴って。

『なんで急に持ってくるのよ!

 アタシだって用事が有るに決まってるでしょう!?

 そんな事も判らないの!?』

灰が沢山乗っかった灰皿を手に取った。
あぁ学校行けるかな。
そう思って、咄嗟に手を掴んだ。
余計に叩かれるのは判ってたけど。
あれこれ詮索されるのは、嫌だった。

『あぁぁ、もう!!アンタ何なのよ!

 何でアタシに全部任せてるのよ!

 アタシが何したって言うの?

 っ〜〜、アンタなんか産まなきゃ良かった!!』

それならばいっそ、今すぐに息の根を止めてほしかった。
ふぅ、とため息を付いて窓の外を見る。
飛んで行った鳥は、籠の中の不自由さを知らない。









『私たちの班は郷土の伝説をまとめました。』

わー…パチパチ…


それからもきゃっきゃとはしゃぐ、クラスの奴ら。
拍手の音で起きた僕は、周りの感想を聞いて終わる。 


「ちょっ、ちょっと待って!今の話しおかしくない!?」


孤立。
自ら進んで孤立するとは、考えたものだ。
こんなもの適当に聞き流して、適当に相槌を打っておけば良い。
そうすれば、嫌うことも嫌われることもない。


「妖怪は、いい人達ばっかりだよ!」

「おめーなんだよ!清継くんの作った自由研究にケチつけよーってのか!」

「だって!ぼくのおじーちゃんはぁ!妖怪の総大将なんだから!」


必死に話しをしても。 
聞かない人は聞かないのに。
だったら、話さなければ良いのに。
早く、終わらないかな。


「……せんせー、帰って良い」

「あら、だめよ。ほら皆、終わりの学活するから席について」


早く帰らないと、母が怒るんだけどなぁ。
がたがたと席を直して、今だ呆然としている奴良に声を掛ける。
はぁ、とため息をついて席を直してやって。
悔しいなんて思ってるのだろう。
眉を寄せて歪んだ顔が、今にも泣きそうで。


「……これから用事有るから、さっさと座ってくれない?」

「…ごめん…」


それでも動こうとしない奴良の手を掴み。
なにも考えずに座らせて。
隣の自分の席につく。
窓を見れば、相変わらず籠の狭さを知らない鳥がまだ青い空を飛んで行った。







「………ただいま」


音一つない家。
白いドアを開けて、家に入る。
リビングに行くと母がいた。
厚化粧で、鼻につく真っ赤なマニキュアを塗りたくって。
口許にはタバコをくわえて。
不自然に染めてある、茶色の似合わない髪。
くりくりと巻いてある、邪魔そうな髪。


「遅かったわね」

「……今から、作るから」

「要らないわよ。アンタが遅いから夕飯食べそびれたわ」

「…………ごめんなさい」


ランドセルを置いて、作ろうとキッチンに向かうけど。
母は、マニキュアが渇いたのを確認して。
指と同じ、真っ赤な鞄を持って外に向かう。


「じゃあね。アタシ、明日は一日居ないから」

「………ん」

「お金、置いて有るから。無駄遣いなんかするんじゃないわよ?」

「………いってらっしゃい」


ドアの隙間から見えた、真っ赤な趣味の悪い車。
昨日見た男の人とは、違う人。
二人は僕なんて居ないかのように気付かない。
あぁそういえば、明日は母の誕生日。
もう二度と帰って来なければ良いのに。
作ろうとした二人分の食材は、虚しくもまな板のうえでどろどろになる。








 ⇒§




 

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