5-2
夕方。
あれからひとしきり話していた彼女らを叱り。
聞き分けのない清継を庭に放り出したのは記憶に新しい。
それからちょっとして、お開きになった。
僕も帰るつもりだったし、と女の子達を送る。
ちなみに清継と島は早々と帰宅した。
「なんやすまんなぁ」
「……べつに。何時に帰っても問題無い」
「あの、坂本くん…一人暮らしだっけ」
「………永久海外出張。二度と帰って来ないよ」
そう言えば、途端にしゅんとする二人。
は、と面倒になって息を落とし。
直ぐ先に有るコンビニに寄る。
待たす事なく出てきた手には、安いけれど美味しい掌サイズのチョコ。
二人の手に落とせば、きょとんとする。
「……他人のことで落ち込むのやめてくれない?」
「せやけど…」
「………だったらそれ食べて笑ってな」
その方が楽だ。
誰かの機嫌をとり続けるよりも、安くても好きなのであろうものを上げた方が楽なのだ。
ぱく、と口に入れれば溶けて行くチョコレート。
そしてそれは突然だった。
「可愛いこちゃんみーっけ!お店連れていっちゃおー」
「な、なんや?」
「やだ、あたしたち帰ってる途中だから!それにこんな」
「問題無いよ!ほら、ね?」
一歩離れた場所で、様子を見る。
染め抜かれた金の、痛み切った髪。
じゃらじゃらと着飾ることしか知らない、首元。
そして、最高級だか知らないけれど、てかてかと光る、趣味の悪いスーツ。
あの人、母と同じ…貢ぐか貢がれるかの違いだけだ。
花開院の顎に指を引っ掛けた時に。
ちらりと見えたのは、動物の毛だろうか。
「…………お前、妖怪?」
「あ゛ぁ?星矢さんになんてこと言いやがる!」
「………妖怪なら、手を離せよ」
「…、……坂本、くん…」
「ふふふ…ふははは!仕方ねえなぁ!…三代目の知り合いだろう!朝まで付き合ってくれよぉ!」
掴んだ手首は、人間のソレじゃなくて。
反対の手で髪を掻き上げれば。
顔は醜くネズミに変わる。
離そうとした手は、後ろから掴まれて壁に投げ飛ばされる。
がつん、と打った頭は重く。
衝撃で霞む視界は、襲われる花開院と家長を捕らえる。力が無い自分が嫌いだ。
強かに打った全身は、相変わらず痛いけれど。
「…………女、捕まえなきゃやってられねぇなんて…」
「なんだよ」
「くそ鼠にも程があらぁ!花開院、家長!さっさと逃げろ!」
「…うるせえなぁ。力無い癖に意気がってんじゃねえぞ!」
喧嘩の仕方も知らない。
でも担嘩の切り方くらいはしってるんだ。
ねえ、よる。
今君に助けを求めたら、君は僕のために来てくれるかなぁ。
寄ってたかって、エナメル質の靴で蹴られ踏み付けられ。
あぁやっぱり自分は弱い奴なんだと、再確認した。
「っ、三人を離せ!」
声が聞こえた。
目を開ければ、奴良が居て。
反対には、星矢だとか呼ばれてた男。
それに取り巻きだかなんかの男たち。
痛いのは慣れてる。
だから、奴良を守ることも出来るはずなのに。
「…なぁ、三代目さんよぉ……。継がないと宣言しろや…」
「っ、三代目なんか、いらない!そんなのどうでもいいよ!」
「あぁ?…てめー何ぞが妖怪のトップにたつと思うだけで死ねるわ!」
「…っっ!!」
ぐ、と力を入れてみた。
動く、みたいだ。
奴良の前に立った星矢が、足を下ろす一瞬。
二人の間に入る。
ガツ、と頬に痛みが走る。
「………奴良に、手を出すな」
「っ、坂本くん!?なんで…」
「………アンタ達は何考えてる。なにが目的だよ」
「へぇ…三代目さんは守られるのか…」
振り上げた足が、何度も頭を蹴る。
「守られなきゃ何も出来ねえ大将なんかいらねえんだよ!今夜中に全国の親分衆に回状を廻せ!」
「…ぁ…坂本、く……」
「もし破ったら……こいつぁ、夜明けとともにぶっ殺す!!」
何度も呼ぶ声に、小さく笑う。
大丈夫、奴良なら大丈夫。
「………早く、行ってこい」
「っ…!!」
「…………早く、あいつら、助けてやれよ」
追い出される小さな背中は。
果たして僕を見つけてくれるだろうか。
仰向けに倒れた視界に。
豪奢で淋しげなシャンデリア。
To be next.
心地良い訪問と、穢れた血。
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