訪問先のシャンデリア
妖怪と初めて話しをした
(本当の初めては彼だけど)
似ているだけでこんなにも怖くなるなんて
(僕は僕でしかないのに)
写真を見て納得はしたけど
(でも一度も逢ったことはない)
ウ゛ー、ウ゛ー、と携帯が鳴る。
ディスプレイには奴良リクオの文字。
日曜日、早い時間。
朝ごはんを食べて、テレビを見ていた時だ。
「…………奴良?」
『うんぼく。今からぼくの家に来ない?』
「………今、から?」
『そう。これから清十字団の皆が来るんだけど』
「…………行った方が、良いなら」
それから二三語話して、家を出る準備をする。
かしゃん、と鍵を掛けてだれも居ない家を一度見上げた。
あれからあの二人から音沙汰はない。
…二度と、来ないでも良いんだけど。
てくてく歩いて行くと、ふとおいしそうな御饅頭。
迷う事なく、一番大きい箱を二箱と。
別の水菓子を一箱買って。
門に着けば、ちょうど他の人達も着いた様で。
「…………はよ、家長」
「おはよ、坂本くん。あ、転校生、知ってるっけ」
「…………聞いた。名前は知らない」
「坂本くん、呼び出してゴメンね、どうぞ」
「…………土産。皆に上げて。こっちはじいちゃんとおばさんに」
「わ、気にしなくて良かったのに!…でもありがと」
玄関で土産を渡して。
客間だろう部屋に座って、リクオが戻ってくるのを待つ。
その間、煎餅を摘んでいて。
「はい、御持たせだけど折角だから」
「………で、誰」
「ん?あぁそっか。花開院ゆらさん。京都で有名な陰陽師なんだって」
「…………ふぅん、物騒だね」
「で、彼は坂本くん。花開院さんの隣のクラスだよ」
「よろしゅう。…なんや妖怪に困ったことあったらいつでも言うてや」
軽く頭を下げ、紹介も終わったところで。
この間滅したのだという付喪の話しになった。
そして存在する妖怪達の、いかに危ないか。
主に、理性の無い下劣な。
あの二人が妖怪なら、多分この下劣な奴ら何だろう。
ひとしきり話した後、タイミング良く毛娼妓さんがお茶を持ってきた。
「っっ〜〜!」
「…………お邪魔してます」
「あらぁ、坂本様ー。お土産有難うございましたぁ」
「………いえ、美味しそうだったので」
「後で頂きますねー。では、皆様も御ゆっくりぃ」
「っ、ちょっと、行ってくるね!!」
人様の家に行くなら、手土産は普通だから。
唯一、母が口うるさく言っていたこと。
本人が実行してるかは、全く知らないけど。
買った土産は、なかなか美味しくて。
自分でも良い買い物だと思う。
味わっていると、島がにじり寄ってきた。
「坂本!あのねーちゃんと知り合いなのかよ!」
「…………お手伝いさんだし」
「くぁぁあ!それならぼくもこの家に住みたい!」
「………花開院、何してる」
「……、怪しいんや、この家…。絶対、何かがおるはず…!」
島にはにじり寄られ、花開院は勝手に部屋を出て行き。
清継もそのあとを追って。
家長は考えていたけど、躊躇いがちに着いて行ってしまって。
本当は放って置きたかったけど、万が一にも見付かったら大変だから。
仕方ない、とため息をつき。
湯飲み片手に縁側を歩いて行く。
暫く歩いていると、ぎゃーぎゃー言いながら歩いている四人を見つけて。
「………何してんの」
「なにって、妖怪探しや!絶対この家にはおるはずや!!」
「…………あのさ」
「風呂場やて!怪しい…てりゃ!!」
かぽーん。
開けられた先には湯気が立っている浴室。
というより、温泉?
この間の小さい(けれど一般よりは大きいだろう)風呂とは違う。
そうか、此処に住むのも多ければ、顔を出しに来るのも多いだろう。
ふむ、と一人でお茶を啜りながら考える。
「………居ないけど」
「、せやな…っならあっちや!」
「ははは行くぞゆらくん!!」
「…………はぁ」
仕方ない、と後を追っていると。
漸く気付いたのか奴良が走ってきた。
「皆どこ行ったのぉ!」
「………あっち」
「判った!坂本くんは戻ってても良いから!」
だだだだ、と走っていく奴良。
どうしようかと考えていると、じいちゃんがやってきた。
会釈すれば、体調を気遣ってくれて。
「…じいちゃんは、妖怪、なんですよね?」
「そうじゃよ。…リクオに聞いたか」
「……いえ、子供の頃、自慢してたから」
「そうかい。ったく、坂本くんをおいて何をしとるんだか…」
言いながらもその目は優しくて。
あぁ本当に大切なんだと、一目でわかる。
口先では何と言おうと。
友達を連れて来たことが嬉しいのだろう。
一度も向けられたことのない瞳は、なんだかよく判らなくて。
「……陰陽師が、怪しいからと」
「おや、そうか…。ま、客間に戻るとするかの」
「………まぁ、遅かれ早かれ、来ますから」
奥の方で、奴良の声がする。
気苦労の絶えない奴らは、後で叱っておくとしよう。
自分の座布団を勧め、のんびりとじいちゃんと話しをする。
妖怪の話しも、沢山聞いた。
しばらくして縁側の障子が開いて。
奴良は飛び跳ねんばかりに驚いていた。
…隙間から見えたのは、少し靄の掛かった空。
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