4-2
「…………ん、…ぅ…」
「…坂本くん?」
「…………奴、良?」
うっすらと目を開けると。
ちょうどひやりと頭にタオルが載せられた。
冷たさが心地良くて、目を細める。
「大分体調、治ったね」
「………うん、ありがと」
「そうそう、休んでる間にさ…」
清継の家に行ったのだという。
それも付喪という妖怪の一種を見に。
「もー、大変だったんだよー」
「………髪…」
「ん?何かあった?」
「……ついてる」
よいしょ、と手を伸ばして。
茶色の髪についた白いものを取る。
それは陶器のようなもので。
ほんの少し力を入れたら、ぱりんと割れた。
粉々になって、膝のうえに落ちる。
あぁもう歩けるかな。
「あ、坂本くん!」
「……も、大分良くなったよ」
「身体冷やしちゃダメだから、これ」
「………ありがと」
掛けられたのは、羽織りで。
普段とは違う服装に、ちょっと戸惑う。
肩に掛け縁側を歩く。
葉桜がざらりと揺れる。
視界を薄桃色が過ぎる。
そ、と香る桜の匂いに目を細める。
「……おや、もう起きて大丈夫なのかい?」
「…………ぇ、と…」
「おじーちゃん!あ、ぼくのおじーちゃんで…彼が坂本くん。同じクラスの友達なんだ」
「ほぉ、リクオが友達連れて来るとはの。初めてのことじゃ」
「………はじめ、まして…」
葉桜を見ていたら、老人が歩いてきた。
きょとん、と見詰め返せば、奴良が慌てていて。
頭を下げればにこりと笑った。
「…………奴良、」
「なに?」
「じいちゃん、総大将、なんだろ?」
「…っ!!」
「妖怪、なんだ…」
じゃあの、と背を見せ歩いていく姿は。
どこにでも居そうな、年寄りの姿で。
あの身体の何処に妖怪の力が有るんだろうと、不思議に思った。
ちら、と横を見れば。
なんだか居心地悪そうにしている奴良がいて。
…拗ねてる?
あぁでも、奴良も妖怪になったら背が大きくなるし。
「…………いい、なぁ」
「…え?」
「………妖怪は、羨ましい」
明日、昼間に。
毛娼妓さんという妖怪が送ってくれるという。
熱があった時は動けなかったし、気付かなかったけど。
改めて奴良の家を見れば。
そこかしこに妖怪がいて。
確かに、これが毎日だったら。
あの日のように言うよな。
「…………だれ?」
「っ、に……」
「…ぁ、の」
「二代目……!!」
がばりと抱き着かれた。
咄嗟のことで受け身も取れなくて。
抱き着いてきたのは、妖怪みたいで。
頭と身体が別れていた。
ぐぃぐぃと力任せに抱き着かれて、息が苦しい。
なんとか息しようと、寧ろ離れようと着物を掴むけど。
きっとたかが人間の力なんて、微塵も感じないんだろうけど。
「……なに、してんの、首無」
「っ…、は……っぬ、ら…」
「離れてくれないかな、首無。坂本くんが死んじゃうよ?」
「若……」
風呂から出てきた奴良に、助けられた。
ケホケホ、と軽く咳込めば。
背中をゆっくりと撫でられる。
なんとか呼吸を整え、離れた妖怪を見る。
首無、と呼ばれた妖怪は。
傷ついたように眉を寄せて、今にも泣きそうにしているけれど。
「…父さんに似てても、坂本くんは坂本くんなんだから。二代目なんて、呼んじゃダメだ」
「で、すが…あまりにも」
「彼はあまり妖怪に免疫が無いんだ。ぼくみたいに妖怪だらけの家で生活していた訳じゃないんだから!」
良く、わからない。
なにがあって、抱き着かれたんだろ[う。
それに、なんで奴良はこんなに怒るのだろう。
父イコール、二代目?
ということは、あのじいちゃんが最初の大将さんで。
父親が二代目で、多分妖怪を纏めてた。
…お、奴良って直系の子供なのか。
「…………奴良、へーきだから」
「もう!坂本くんもそんなこと言っちゃダメだよ」
「…あの、どれだけ奴良の父親に似てるか知らないですけど。僕はただの人間です」
「………っ、二代目…」
「…二代目、でも、無い…から。ごめん、なさい…」
ケホケホと咳も収まって。
二人の言い分もわかる。
でも、僕は僕だ。
…視界の端で桜が笑った。
To be next.
悠然とたなびくのは、金と銀の細糸。
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[mokuji]
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