「赤いにおい」


言葉で表すにはあまりにも難しいこれを、もしひとことで表すのなら、私は“重い”だと思う。頭が重い、腰が重い、心が重い。そしてやけに眠くなる。月のものがきた。


「ごめん。文次郎、だっこして」

「おう」


そう頼めば、彼は私に近づいて、胡座した上に私を抱え込んで抱き締めた。彼の体温に包まれた私は、温かくてほっとした。この下腹部の痛みが温めると緩和するように、このときのささくれだった心も、温められると緩和するようだ。


「文次郎…」

「どうした、つらいか?」

「私…生臭くない?」


自分では感じる、血生臭いようなこの独特なにおい。赤いにおい。私はもう慣れているけれど 、それでも気持ち悪いにおいだ。私の言葉が予想外だったのか、彼は少し驚いた顔をした。


「そんなことねえよ」

「ならいいけど…、何か嫌じゃない?」


彼がこの赤いにおいを感じてないなら、その方がいい。せっかく甘えさせてくれてるのに、嫌な思いまでさせたくないもの。

文次郎は私を強く抱き寄せた。


「●●」

「ん?」


何を思ったのか、突然、私の首もとに鼻を擦り寄せる。


「えっ、なにっ…」

「お前のにおいだ」


後頭部を撫でられる。手の大きさと、温かさを感じる。



「嫌なわけねえだろ」



言われた言葉に赤面した。顔は見えないけど、それは恐らく彼も同じ。彼を愛していると思った。それを伝えたくて、私も彼の堅い胸板に鼻を押し付けた。彼のにおいを胸に吸い込む。

ほんとだ、嫌なわけがない。







(赤いにおい)

(重いにおい)








おまけ


〇〇「くしゅんっ!」

潮江「寒いか?」

〇〇「いや…大丈夫」

潮江「どうした、眉間にしわ寄ってんぞ」

〇〇「今、めっちゃ出た」

潮江「…………………そうか」




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