「無理、しなくていいんです。すべてを、吐き出しても。泣いても。醜いくらいに泣き叫んでも。すべてを吐露しても―――いいんです」

あぁ、すべてを投げ出して、彼女に縋りついてしまいたい。
みっともないくらい、泣いて。縋りつきたい。

やさしいとも、残酷とも思えた。

+ + + + + + +

カチャ、と咲姫ちゃんがカップをテーブルに置く音。

「落ち着きましたか…?」

「……うん、ありがとう」

彼女の目の前で泣き崩れてしまったあたしを見捨てることなく、咲姫ちゃんはあたしを宥めた。
(歌憐だったら、見捨てられていたんだと考えると、どこまでも酷い奴だと思ってしまう)

ふわりと香る紅茶の匂い。

不安定な感情がようやく纏まった気がする。

「おいしい…」

一口カップに口をつけて、その香りを味わいながら、飲むと、やさしい味がした。
コーヒーとはまた違う味。

「ありがとうございます。それ、義姉(あね)に習ったんです」

「確か、結婚したんだっけ?お兄さん」

「はい」

「お義姉さん、いい人?」

「はい、とても」

にこりと、無理な笑いじゃなくて素の笑顔。
本当にいい人なんだなぁ、って思う。




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