それに。どうしても相手の肌があたしに触れるたび、“気持ち悪い”と感じた。
いまにして思えば。大してすきじゃなかったんだなぁ。

こんな身の擦り切れるような感情、ハジメテだし。

とは言っても。歴代の彼氏がすきで付き合ってたわけじゃないしね。
告白されてずるずると引き延ばしちゃっただけだし。

それだけすきじゃなかったんだろうなぁ。
自分の鈍感さ加減にも愛想が品切れになりそう。

なんだろう。無性に歴代の彼氏たちに謝りたくなってきた。

思考の海でゆらゆらしていると、カタリと音を立ててあたしの机にコーヒーカップが置かれる。
中にはこの世のすべての黒を集めたかのような黒々とした液体。
相変わらず分量間違えるのね。

横目で湊を見ると、うぇーと舌を出している。
やっぱり苦いみたい。

「大丈夫?」

「苦ぇ」

ベーっと舌を出して苦さをどうにかしようとする湊。
恋って不思議。
普段友達がそんなことしてたらめいいっぱい笑ってやるのに。
湊がするとどうしてか心の奥底がぽわぽわ温かくなって、愛しく思える。

救済の手立てであたしがコーヒーを淹れようと腰をあげると湊が不思議そうな顔で見上げてきた。

「苦くて飲めないんでしょ?あたしのついでに淹れてあげる」

あぁ!もうあたしの意気地なしっ!
どうしてここで“湊のために淹れてあげる”って少しは女の子らしいこと言えないの!
…いきなりそんなこと言い出したらこいつはあたしに熱があるんじゃないかと疑うんだろうけど。

「やっぱり蜜羽の淹れるコーヒーが美味いよな」

……反則。
そんな安心しきった、まるであたしじゃないとダメ、みたいな発言。反則だ。
おかげで心臓が慌てて動く。

「どーも」

当たり障りのない返事をするのが難しいほどにあたしの息は切れ切れで呼吸困難に見舞われていた。




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