頬擦りをしていると、コツコツコツと一定のリズムの靴音が響いて、その人物が浮かび上がった。

ダークブラウンのちょっと猫毛っぽい髪。
端整な顔が月明かりに照らされて、幻想的な空気を作り出す。

「また、ケンカか?」

「うるせぇ」

ぺっ、と血の混じった唾を吐き出し、手の甲で口元を拭う。
そんな姿さえも、綺麗に見えてしまうのだから、彼には特別にフィルターがかかっているのかもしれない。

……というか。その怪我、ケンカしたからだったんですね。

「さすがは戦の神だな」

「…そういうあんたはまた浮気か?」

その問いかけにクスッと控えめに笑って、ポリポリとダークブラウンの髪を掻き毟る。

「それで、彼女なのか?」

話し合っていた会話の最中にあたしへと視線を向けてきた、端整な顔の青年はあたしを見つめて悪戯っぽく、懐かしむように笑んだ。

え?なに?

「また会おう、お嬢さん」

口角を上げ、ひらりと手を振る彼。
思わず見とれてしまうのも、仕方がないと思う。

「それじゃぁ、」

その瞬間、あたしの左手が冷たい何かに拘束されて、柔らかいものが押し付けられた。
えっ!?

そろり、と伏せていた目を上げ、無表情ながらも薄く口角を上げた彼は、悩殺モノ。
そんな表情でさえ、綺麗で。。。

一瞬見えた、儚げな表情はなんだったんだろう。





-5-
[*←]|top|[→#]