わけのわからない、理解できないことを呟いた彼は、あたしの手を取り、空いていた席へとエスコートする。
すごく女性の扱いに長けた人だと、直感的に思った。
それから。理由がわからないけど、この人にこんなことをさせていいのか、すごく思う。

今更エスコートを断ることも出来ずに、彼に導かれてあたしはふかふかのソファに座らせられた。

視線を彼へと向ける。

「なん、ですか?」

すごく緊張して、思わず途中で噛んでしまったことにも彼は余裕の笑み。
それが余計に恥ずかしい本でもあるんだけど。

「いきなりで驚いただろう?狼はエスコートは下手糞だからな」

「えっと」

驚くも何も。完全に休日明けから女子たちのいたーい視線を感じて、針の筵状態ですよ。
とは言えずにあはは、と乾いた笑みを返すことに専念する。

と。脚にふわふわした毛並みのものが触れる。
あ……!

「あのときの!」

そっと手を差し伸べると、甘えるように鼻を擦りつけて来るオオカミくん。
いやぁー!かわいいっ!

「この子、あなたのなの?」

一ノ瀬狼に訊ねると、彼は、ただ頷くだけで肯定を示す。
よく見れば、彼の銀髪とオオカミくんの銀の毛並みはまったく同じ色をしている。

なにか関係があるのかな。あるわけないか。
それにしても珍しい毛並みだよね。
普通は茶色とか、黒色とかが一般的なのに、灰色狼なんて珍しい。

すっかりと考え込んでしまったあたしに困ったように首を傾げるオオカミくん。
かわいいなぁ。おうちに連れて帰りたいくらい。

犯罪者一歩手前の思考をしていると。
コツコツとピンヒールを履いたときみたいな、大理石を踏む音が聞こえてきた。





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