わぁ……!

思わず漏れそうになった、感嘆の声を心の中で上げる。

そこはまるで古代遺跡のようだった。
古代の人々が作ったかのような壁、柱。
神殿と呼ぶに相応しい場所。

こういうところってだいすきなんだよね。
あとで探検してみよー。

建築物に見惚れていると、すたすたと一ノ瀬狼が神殿の中に入ってしまっていた。
慌てて追いかける。

まるで、自分の家みたいに振舞う彼。
何度もここに来たことがあるのかな。
でも、なんであたしまで?

疑問に思うことが増えていく。

ピタリと立ち止まると(いきなり止まるから彼の背にぶつかりそうだ)、観音開きの扉を重々しい音で開けた。
どこか懐かしい、記憶の奥底にあるものがぶわりと溢れて、止まらなくなる。

ほろり、と泪が頬を伝う感覚。

どうしてだろう。

泪が溢れて止まらない。
まるで、ここをあたしの終息地のような。
ここに来るためにあたしは生まれてきたみたいな、そんな錯覚。

あたしの中にある、名もなき感情たちが一気に溢れ出て、喩えようのない不思議な感覚がする。

「本当に、彼女を継ぐものか」

古代の風を纏った、雰囲気。
どうして、懐かしいと感じるの。

「え……?」

ほろほろと溢れ出て、止まらなかった泪が彼の指で拭われる。

猫毛っぽいダークブラウンの髪に。
すっと通った鼻筋に。
色白とまではいかないけど、ニキビ痕なんてなんてない綺麗な肌。
顔全体のパーツのバランスが綺麗に整ってる人。

その人は、あのとき、一ノ瀬狼に呼び出された端整な顔立ちの人だった。

なぜだろう。彼に逆らおうとは思えない。





-10-
[*←]|top|[→#]