上手く樹に腕を引っ掛け、一回転。
それから飛び降りると、無事着地。
それを見た人々は口を揃えてこう言うだろう。
“山猿”
「着地成功。あたしが縛られただけじゃ逃げなさないとでも思ったのかしら? お父様は」
そんなことは父も重々承知。
だから苦肉の策であそこまで縛り上げたのに。
(老体の身体を引きずって娘を縛り付けたのに)
あっさりの父を裏切る娘は無邪気にスカートについた埃と葉を払い落としていた。
母には罪悪感が残る。
―――だが、父には何の未練もないヴィクトリア。
いっそのこと清々しい。
そして、
国王は不憫である。
「さてと。警備にばれないうちにどこかに移動するか」
そういうとヴィクトリアは走り出した。
+ + + + + + +
一方。
その頃王女・ヴィクトリアの私室では、ヴィクトリアの脱走に気がついた国王がうむむ、と唸っていた。
確かにヴィクトリアは粗雑な娘だが、縛られて尚、逃げ出すとは。
敵ながら天晴れ。
敵ではなく娘なのだが。
推察するに開け放たている窓から逃げ出したのだろう。
「お転婆娘が……!」
国王はそう吐き捨てると兵士たちに向き直った。
「急ぎ、王女を捕らえよ! 決して逃がすな」
「――はっ!」
敬礼すると兵士たちは走り出した。
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