怯えながら見つめていると、澄みきっているバイオレットの瞳の中に確かな“熱”を見つけた。
過去に一度だけ見たことのある、その眼差し。

気づけば、手を伸ばしていた。

「ブライアン?」

そっと、その陶器のようにすべやかな頬を撫でていく。

「――なんでそんなかわいいの?」

「へっ?」

同じように頬を撫ぜられる。
ブライアンの体温は結構低くて、びくっと体が跳ねた。

「簡単に俺の理性壊さないでよ」

“せっかく人がなけなしの理性で抑えようとしてたのに”

身を屈まれて、そう耳元で囁かれた。
おまけとばかりにこめかみにキスされる。

こめかみ、額、瞼、鼻、頬。

「まぁ焦らせるのも悪いし、今日は諦めるよ」

「う、うん」

って、ちょっと待て。

「“今日は”って言った? 言ったよね!?」

「……」

「何で黙るの!?」

ぐっと腕を掴むと、鉄壁の笑顔を返された。
こ、こいつ……!

「さて、帰ろうか」

あたしを囲っていた腕を離し、立ち上がるブライアン。
なんだか腑に落ちないんですけど。

ぶーたれていると、やや冷たいブライアンの手が差し出された。

「…ありがとう」

手を繋ぎ城への道を歩き始める。

「ねぇ、ヴィクトリア」

「なぁに?」

そっと見上げると、さっきよりも熱の引いた澄んだ目で見つめられた。
そう思った途端、――――最熱。

「早く覚悟してね」

繋がれたあたしの手に口付けられた。

ほんとにこの男は!
何かしてないと落ち着かないのかぁ!!!


「何すんのよ!」

「何ってキスだけど?」

「そんなもんはわかるわ!!」

また頬にキス。

「これからヴィクトリアの“初めて”全部貰ってくから」


妖艶に微笑むブライアン。
男のくせに綺麗だと思ってしまった。


「何考えてるのよ!」

「何、何うるさいよヴィクトリア」



どうしようお母様。
あたし、とんでもない男に捕まっちゃったみたい。

どうしようっ!



"籠の鳥―Captured Bird―"Fin.


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