逃れがたい腕。
気を抜いてしまったら、囚われてしまいそう――。

「いい加減、離してっっ!」

ブライアンに掴まれた腕を取り外そうとして身じろぐ。
この熱が毒のように、ヴィクトリアを狂わせていく。

「いやだよ。もう、離さない」

彼のよどみない瞳に見つめられてヴィクトリアはびくりと固まってしまった。

毒に、浸食されていく感覚がぞわりぞわりと近づいてくる。

「……っ」

「ねえ、俺だけを見て。―――他のものなんて瞳に映さないで」

“そんなもの無理に決まってる”

そう言いたかった。
でも彼の眼差し―――懇願の眼差しに何も言えなくなってしまう。

「俺だけを見て、俺だけを感じて、俺だけに耳を傾けて、俺だけに溺れて」

「そ、んなの」

無理だと告げようとした言葉は彼の指によって止められてしまう。

ただひとりの男に溺れることはとても怖い。
まるで、自分が自分じゃなくなっていくみたいに。

「何も言わないで。誰とも話をしないで…」

彼の瞳に浮かぶ感情は縋りつくような子どものような感情。

「ブライアン……」

「お願い…」

その言葉にヴィクトリアはブライアンを抱きしめてしまった。
泣き出しそうな子供を守りたい、そういうような感情だった。

――彼は独りなんだ。

そう思ったら、この子どものように縋りつく両腕を振り解くことなんかできなかった。

ブライアンは無言でヴィクトリアの腰に手を回した。
そしてきつく、抱き寄せた。

まるで番いのようにぴったりと合わさる身体と心。

「………」

ふたりは無言だった。

でも。どこかとても穏やかな空気が流れていた。



The girl fell into the man's trap.
(娘は男の罠に掛かってしまった)

Sugary Trap

(どうかこの人の心が救われますよう…)



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