心の中で問いを繰り返しているヴィクトリアを尻目にディーファは苛付いていた。
自分が少しここを離れていたおかげでヴィクトリアに変な男(虫)が寄りついてしまったようだ。
クソ…ッ! やっぱり国王の命令なんか無視すりゃよかった!
そう心の中で繰り返すディーファ。
もちろん。国王も王妃も姉、親友のマイアも彼の気持ちには気づいている。
気づいていないのは当の本人、ヴィクトリアだけ。
その気持ちに気づいていながら、ディーファを追い出した国王と王妃。
つまりは邪魔させないためである。
この男がいたら絶対に婚約なんか出来なかった。
確かに最初はこの男を婿に、とも思った。
この国では従兄妹同士の結婚は認められている――が。
家柄。富。名声。力。
すべてを総合的に見た結果、完璧に外されてしまったのである。
(王妃の趣味もあるとは思う。彼女は昔からディーファの精悍な顔立ちを気に入ってはいなかったのだ)
「………チッ…」
小さな声で舌打ちする。
イラつきで貧乏揺すりが激しくなり、その精悍な顔は恐ろしいほどにゴリラに似てきている。
言うなれば。
“眼光で人が殺せそうな勢い”だ。
「ん? 何か言った?」
「いーや、何でもねぇよ」
「ふーん…」
自分があ、れ、だ、け! 距離感だとか真剣に考えて生きてきたのにいきなりそれをかっ飛ばしてヴィクトリアに近づくなよ。
などと見たこともないブライアンへの苛立ちで心中荒れ狂う。
ここまでくると男の嫉妬も醜いものである。
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