数分後、鼻歌を歌いながら国王が部屋から出てきた。
どことなく機嫌がよさそうだ。

見張りをしていた兵士たちは首を傾げて国王の後姿を見送ったのである。

+ + + + + + +

「んん゛――!!」

チッ、あのばか親父!

いささか口が悪いヴィクトリアは内心毒づきながら、自分の現状を見つめた。
椅子に座らせられ、ロープでぐるぐる巻き。

口に咥えられた布。
(頬に当たっていてかなり痛い)

背中辺りでまとめられた両腕。
(逃げ出さないようにかかなり力が込められている)

同じくロープで結ばれた両足。
(これまた痛い)

さすが元・暴れ馬の異名を持つ父。
ヴィクトリアを取り押さえるのも簡単そうだった。

ヴィクトリアは己の運命を激しく呪った。
それはもう、神様を殺すくらいの勢いで。

「……」

一旦昂ぶった気持ちを落ち着かせ、腕の力を最大限に蓄える。
そして、腕をお尻の下から脚の方へと抜けさせる。
常人には出来ない業――けれど身体が元々柔らかかったヴィクトリアには朝飯前なのである。

そして指を動かして、ブーツのとあるところにある突起をグッと押すと、鋭利な刃が踵らへんから飛び出た。
そこに迷いなく腕を近づかせ、ロープを切り裂く。

自由になった腕で口に咥えさせられている布を剥ぎ取った。

「ぷはーっ」

がちがちに固まった身体を解して、精緻な装飾の施されている、いかにも乙女趣味なクローゼットの中にある元々用意してあった身軽な――悪く言えば簡素な街娘の格好に着替える。
(乙女趣味なのはあたしじゃない。お母様の趣味だ)

裾を引っ張ってきちんと動きやすいか確認してから、長い髪を高い位置にひとつで纏めた。
お母様譲りの――純粋な金髪。

それだけがヴィクトリアの自慢だった。

“お母様、ごめんなさい”

一言目を伏せ謝ると、ヴィクトリアは窓から飛び降りた―――。


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