「で、何をぶつくさ言ってたの?」
「……」
ヴィクトリアが黙っていると優しい顔で催促した。
「…ブライアンはあたしのどこを気に入ったんだろうって」
これは本音だった。
ガサツで落ち着きもなくてこれといって秀でたものがないヴィクトリアだ。
(忍耐と脱走しか特技がない)
どこを気に入ったのかまったく検討もつかない。
「何だそんなこと」
「そんなことって…!」
「ヴィクトリアは体面を考えすぎなんだよ。
――俺はお前がいいと思ったから婚約したんだ」
急に二人称が“お前”に変わり、そして声質も低くなったブライアンに体が震えた。
いつもの如くブライアンの瞳は澄んでいる。
とても綺麗なアメジストに似た輝きを秘める瞳にどうしようもなく魅せられる。
それに見つめられてヴィクトリアの身体が――傾いだ。
He has a malicious tongue.
(彼の言葉には毒がある)
Deceive
(それ以外に重要なことなんて、ひとつもない)