「でも今更、味方なんて作れない」
そう。
国中誰もがこの婚約を喜んでいるのだ。
その歓喜をたった一言で崩したくない。
そんなことを言ってしまえば王宮にも被害が及ぶし、おまけに街人が落胆する。
つまりは王宮にとっても破棄は何とか免れなければならぬことなのだ。
「だったらもっとまともな男選んでよ!」
ヴィクトリアが決めたわけではない。
国王と王妃だ。
というか主に王妃だろう。
後釜を狙っているに違いない。
(母は昔から無類のイケメン好きだ)
はぁ…、とヴィクトリアは溜息を吐いた。
「なにさっきから言ってるの、ヴィクトリア?」
「………」
もう驚く気のもならない。
この草むらに座り込んでいる男を無視してやろうかとも思ったが…後が怖い。
ネチネチネチネチ×100くらい文句を言われるだろう。
「溜息吐くとしあわせが飛んでくよ?」
「溜息吐かせてんのはあんたよ! ブライアン!」
「ちぇー」
唇を尖らせ子どものような仕草をするブライアンにひとつ笑みが零れた。
ほぼ無意識に。
「で、一国の王女の婚約者がここでなにしてんの」
“婚約者”の部分に嫌味を込めたのだが効かなかったらしい。
代わりにブライアンは黙ってこちらに手を向けた。
―――こっちに来いという意味。
仕方無しに近寄ると腕を引かれ彼の脚に挟まれる結果になった。
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