「まあ落ち着きなさいって。ケーキ食べる?」
無言で縦に首を振った。
こいつは本当にあたしと同い年なのだろうか。
「おいしい…」
「ヴィクトリア好きだもんね。その苺タルト」
女の子らしくないヴィクトリアが少女趣味の苺タルトなんて抱腹絶倒しそうだが、仕方がない。すきなのだから。
「そういえば、」
「? なに?」
「ラーミロ王国とミスティ王国で戦争が起こってるみたいね」
「うん。うちもミスティ王国に兵士を送ってるみたい」
「どちらが勝つのかしら」
「どっちでもいいから人が傷つかなければいいな」
戦争が起こってほしいというわけではないが、傷つかないでほしい。
辛いのは残された人なのだから。
―――死者は甦らない。
そうわかっていながら戦争をする気持ちがよくわからない。
「そういえばそこにブライアンも行ってたはず」
記憶を手探りで引くと、確か国王がそう言っていたことを思い出す。
(王妃が言ったことなら一言一句間違いなく言える自信があるが、国王となると自信がない)
「え!? 婚約者殿が!?」
「う、うん」
マイアの覇気に気圧されてヴィクトリアはソファから落ちかけた。
妙に力が入っている気がする。
「大丈夫なのかしら。心配じゃないの!?」
あっけらかんとした表情のヴィクトリアを見てマイアは“ありえない!”といった様子でヴィクトリアの肩を掴んだ。
「いや、別に……」
「婚約者なんだから心配しなさいよ!」
なぜ怒られているんだ? と思いながらもヴィクトリアは“わかった”と頷いた。
あれ? なんで頷いてるの?
「でも心配しなくて大丈夫だと思うよ」
「あ」
「そうそう。俺は無事だから」
マイアが何かを見つけたような声を上げたと思ったら、後ろで声がした。
その瞬間、頬に柔らかなものが触れた。
「、ぎゃあぁあぁああぁ――!!」
「ただいま。俺のヴィクトリア」
“相変わらず色気ないねー”と余計なことを言いながらヴィクトリアの顔中にキスを落としていく。
「な、なにすんのよ!」
「“なに”って。ただいまのキス? 婚約者同士なら当たり前じゃない」
「すんなぁ――――!!!」
ヴィクトリアは絶叫した。
マイアはそんな間に部屋からこっそりと出る。
あのふたりを邪魔してしまうのは野暮だろう。
I am talking seriously now!
(まじめに話しているんです!)
Girl's Talk
(聞いてるの!?)
(聞いてる聞いてる。だからお疲れの婚約者を癒して)
(聞いてないじゃない!)