「―――取り敢えず」
「え?」
案外近くで聞こえた声にヴィクトリアは顔を上げた。
そしてものの見事に石のように固まった。
チュッとリップ音が聞こえる。
しかも自分の頬辺りから。
ほほ? ホホ? 保保? 頬?
「は!?」
ことに気づいたヴィクトリアは腕を突っぱねてブライアンから離れた。
しかしすぐさま腕を取られ引き戻される。
またもや追いやられてしまう水。
そして彼はニヤリと笑って、
「これからよろしく、俺のお姫様?」
――手の甲に口付けた。
視界の淵では国王と兵士たちが固まっているのが見えた。
けれど気遣う余裕がヴィクトリアにはない。
あるわけがない。
というか一番動揺しているのはヴィクトリアだ。
-9-
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