「おや。これは、これはブライアン様!」
国王はゴマすりをし始めた。
先ほどの表情とは打って変わり、へにゃへにゃ顔――現代バージョンで言えば、電車の中で痴漢するヘンタイ親父の顔をしている。
ヴィクトリアは眉を曲げた。
知り合い?
「久しぶりです国王」
ゆらゆらと波打つ湖の中で、ヴィクトリアの体を支えながら、ブライアンと呼ばれた美貌の青年は頭を下げた。
ヴィクトリアの表情を見て思い当たるところがあったのか国王はぽんと手を打った。
人を無視して話を進めるな!
「そういえばヴィクトリア。彼は、」
「初めまして、ヴィクトリア・サン・シェラルド姫。
ブライアン・カトリスと申します」
国王の言葉を遮り、ブライアンは名を名乗った。
にこりと、魅惑の笑顔はヘタすりゃ鼻血もんだ。
ゆらりとヴィクトリアの心が揺れると同時に水も揺れる。
「そうそう、彼はお前の婚約者だ」
一瞬自分の耳を疑った。
いま、なんと……?
「お、お父様? 今なんて言ったの」
どうか聞き間違い、幻聴でありますように。と願いながら問い直す。
ん? と国王は首を傾げもう一度ヴィクトリアに絶望の単語を戸惑いなく告げた。
「ブライアン様はお前の“婚約者”だ」
「はぁああああああ―――――!?」
そしてヴィクトリアは発狂した。
あれほど嫌がった婚約者がこの見目の良いこの男なのだ。
そりゃ驚く。驚きすぎて目が飛び出そう。
(実際はそんなわけがないのだが、そう表現するくらいの驚き)
――というか自分のどこを気に入ったんだ?
こんなお転婆なのに?
“山猿”と呼ばれるくらいなのに?
ヴィクトリアの頭にたくさんのハテナが浮かぶ。
そんな間にもヴィクトリアの頭を悩ませる張本人ブライアンはすっと近づいた。
阻まれ、追いやられた水。
うっとりするくらい綺麗な顔が近づいた。
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