去年通りの道を去年通りうきうき足取りで急ぐ。
少し違うのは、千歳との関係。


ううん。それだけじゃない。
日に日に刻々とあたしはどんどんどんどん底の尽きない千歳という穴に溺れもがくことなく沈んでいる。


乙女的思考回路になっていた自分を、中学生かよなんて言って苦笑していると鼻先に冷たくて白いものがぽつっと当たった。


道理で寒いはずだ。


「ふふっ……」


はぁ…と白い息を吐き出し、シャネルのミュールで駆け出した。


+ + + + + + +


去年とは違い、Bar Roseの扉にClosedの札がかかっていた。
あたしは迷わず裏口――波多野家玄関に回り、チャイムを押すことなく渡されていた合鍵でドアを開ける。


「千歳ー? クリスマスは稼ぎ時なのに、どうして店が閉まっているの?」


いくら土俵が違えど結局は商売。年末はもっとも忙しい時期でおまけに一年で数回の稼ぎ時である。
確かに店主である男の性格はノーコメントだけれど、千歳の作る空間は不思議とムードがあって、クリスマスの時期は大儲けだと昔言っていた気がする。(密かにあたしも気に入っていたのに)


声を掛けながら、部屋を見回るも、どこにもいない。


残る部屋は、、、


千歳らしいといえばらしいけれど、呆れてものも言えないとはこのこと。
溜め息を吐き出し、手で即興のピストルを構えて、


「...Checkmate」


寝室の扉を開けた途端、身体が大きなものによって囚われ、貪り尽くすようにディープでハードなキスが始まった。
魅せられたキス。それによってどれだけの快感が得られるか知ってしまった身体は最早白旗を上げ降参してしまっている。


身も心も拘束されているような気がしてならない。


「千歳、商売はいいの?」


「ツレナイ彼女だな。せっかく彼氏がClosedの札をかけて待ってたっていうのに」


「ベッドルームでシーツを整えて?」


千歳の唇が首筋を撫で、下降していくのを身体を離すことで防ぐ。


「外は雪が降ってるの」


「なら、ホワイトクリスマスだな」


「そう。聖なる夜なのに、いきなりベッドイン?」


首を45度に傾げてあたしの最も綺麗に魅えるアングルを作り上げる。
ぐっ、と押し黙る千歳はかなり楽しすぎる。


千歳によって教えられたすべては千歳を翻弄するためにあるとわかってからはあたしの勝利も少なくはない。


「キリストに対する冒涜じゃないかしら」


「性夜だからキリストも許してくれるだろ」


「漢字が違う」


拗ねてみせると、嘆息を吐き出して千歳が歩き出す。


「んじゃ、カクテルでも作るか」


「ドライ・マティーニとマンハッタン?」


「だな」


ニヤリと笑った千歳に負けじとニヤリと笑い返す。
仕返しとばかりに、千歳が耳元で囁いた。


“オアズケした分、覚悟しろよ”


そのベッドで聞かされる低い艶のある声にお腹の奥がキュンとなる。
どうしよう、あたしが我慢できなくなっただなんて言えない。


いますぐにでも甘く、溶かされたいと言ったら、千歳はどんな顔をするんだろうか。


どちらにしろ千歳の思惑にまんまと嵌まっている気もするけれど、、、


こんな性夜も悪くない!!(あ、漢字間違えた)




fin.




-5-
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