「かなえおねえちゃん! これはこっちでいい?」

誡くんの声に振り返って、思わず頬を緩める。
この子の将来がどうなるか、今から楽しみだ。間違っても私の大切な胡桃を奪おうとしている男みたいにはならないでもらいたい。

「うん。気をつけてね」

「はぁーい」

皿を2、3枚重ねて食器棚に向かう誡くんをハラハラとした気持ちが湧き上がる。
……怪我しないといいけど。

誡君を見つめていると、後片付けし終わった実音ちゃんがキッチンに入ってきた。
可愛い容姿とは裏腹にニヤニヤとした犯罪者一歩手前の顔をしている。

「お疲れ様。紅茶でも淹れようか」

「うん。お願い」

年に一度のクリスマス・イブ。
家庭の事情で離婚してしまった実音ちゃんの家庭は、お母さんが誡くんを。実音ちゃんをお父さんが引き取ることで終息を向かえた。
お母さんの配慮もあってか、イブの日は姉弟が一緒にいられるようにしてくれたらしい。

紅茶を淹れ終わり、テーブルに3つカップを乗っける(誡くんのはココアだ)。

「ほんと、手がかかるね。あの二人」

「そうね」

「周りから見たらすぐにわかることなのに…」

「当事者だから見えないこともあるのよ」

「灯台下暗し、ってやつ?」

コクリ、と紅茶を飲むと驚いたような表情で実音ちゃんが見ていた。
なにかしら?

「大人だね、香奈枝は」

「そうかしら?」

まぁ、最近。お淑やかになったわね、とかはよく言われるような気がする。

「二度と。あんなことは起こしたくないもの」

「……香奈枝って、あたしとは大違い」

ソファに丸まって眠ってしまった誡君を実音ちゃんはやさしく撫でた。慈愛に満ちた、やさしい、やさしい表情。

「そんなことないわよ」

「そうかな」

「そうよ。じゃなきゃぁ誡くんは懐かないわ」

ふふ、と微笑みながらまたカップに口をつける。

親友の幸せを祈りながら。願いながら。切望して。


Good luck much happiness.
(幸多かれ)




fin.




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