この寒空の下(墓地で)、私は何をしているんだ!
不意に自分を罵りたくなった。

目の前には挑発を繰り返しながら、ふらふらと浮遊する、“首”。

その名を“踊り首”と言う。
何でも、寺に来た人々全員を驚かしまくっているそうな。
そのために失神する人が後を絶たないとか…。

見かねた寺の和尚が私の家に依頼してきたのだ。

私の家、陽樹家は古くから続く陰陽師で。
まあ、つまりは妖怪退治屋というわけになる。

「ああ――!! 怜が来る前に私は片付けたいの!!」

大ッッ嫌いなあいつの手を借りるくらいだったら、閻魔大王に舌を抜かれた方がマシ!
私は霊剣“桜雨”を構えた。

私はエキスパートなんだから、あいつの手なんか借りなくても妖怪退治くらいなら出来る。

「よくもこの寒空の下、働かせてくれたわね!」

ぐぐ…、と忌々しそうに顔を歪めた踊り首は、顔全体を降り始めた。(当たり前だ。こいつには胴体がないんだから)

「無駄だからね。――怜! 今夜こそ私の勝ちよ!」

「さぁて、どうかな?」

腹立たしい声が近くで聞こえて、私は思わず気を緩めた。――のが、間違いだったんだろう。

私の気が緩んだと張り詰められた気が途切れてしまった。

途端に小躍りしだす忌まわしい踊り首。

こんにゃろう…!

拳に異様な力が加わる。
しょうがない。あんまり気は進まないけど、鉄拳制裁でこらしめるしかないんだろう。

その殴りかかる寸前、

「ウゼェ…」

ウィスパーボイスの男の声が聞こえた。




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