「あら、ヴィクトリアどうしたの?」


テーブルの下にうずくまって小さくなり必死に身を隠している挙動不審な妹に出会った。


どうしたのかしら。


「お姉さま、大丈夫ですよ。ヴィクトリアは今、王子様とかくれんぼしているだけですから」

「あらあら」


そっと可愛らしい我が妹ヴィクトリアの親友のマイアが耳打ちしてくれて、やっと事情がわかった。


そろそろ妹の婚約者を本気で締めるべきかと思案する。


「お姉様、マイア、しっ――!」


お母様譲りの金糸の長い髪が床に広がっているのにも構わずにヴィクトリアが懇願するような眼差しを送ってくる。
上目遣いで見上げてくるヴィクトリアは身内という贔屓目を入れても可愛い。


そんな可愛らしい妹を見捨てるのも忍びない。


どうするものか…と悩んでいるとパタンっと静かに扉が開く音がした。


「――ヴィクトリア、見つけたよ」


びくっとヴィクトリアは身を震わせ、後退り始め、ごつんとどこかに頭をぶつける音が。


大丈夫かしら、と覗き込もうとテーブルクロスを上げた瞬間、攫うようにヴィクトリアの身体が彼に抱きかかえられていた。


「失礼、ご容赦ください」


ぺこりと頭を下げ、去って行こうとする彼を呼び止める。(ヴィクトリアはその腕の中でぷるぷると華奢な身体を震わせていた)


「くれぐれも、無体なことはしませんようにとお願いしておきますわ」


言外に様々なものを込めて。


にっこりと微笑むと察したらしい彼がこくりと頷く。
頭の回転は速いようだ。


「それでは、失礼致しました」


これまた丁寧に頭を下げて彼は去って行った。
―――その腕(かいな)にだいすきな妹を閉じ込めて。


「大丈夫かしら」


「大丈夫でしょう。お姉さまのパンチも効いたと思われます」


そう言いながらもマイアはお茶の準備を始めていた。


「どうぞ。アッサムティーです」


完璧な匂いに、穏やかな午後。
クリスマス・イブにこんな贅沢、嬉しいわね。


わたしは、用意された椅子に腰かけた。


あとは妹の幸せをそっと願い、見守ろうではないか。
ついでにあの男がオイタをしたときに妹を救い出せるよう彼の悪事をそっと集めておこう。




fin.




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