「おかえり、吹雪」


「ただいま」


そんな間にも“勿体無い”とばかりに私の顔中にキスを降らせてくる。


確かに最初は恥ずかしかったけど、今ではすっかり慣れて、むしろ嬉しく、心地よく感じるようになっていた。


「さて、と」


よく考えてみたら、玄関で何をしているのだと思う。
私のくせにがっつきすぎちゃったみたい。(確実に吹雪の影響である)


ふわり、と身体が宙に浮いた。


「ちょ、吹雪?」


急なことで驚きを隠せない私をお構いなしに運ぶ吹雪には悪ーい笑みが浮んでいた。


例えて言うなら、そう。
千歳みたいなサディスティックな笑いだ。


「まず先にプレゼント貰うよ」


「へ?」


「あみかにはまた後でな」


そう言ってこめかみにキスをされた。


そしてよくわからないまま吹雪の熱に翻弄されて皺だらけのシーツに横たわっていると。
なにも身につけず素っ裸でスーツのジャケットを探っている吹雪と視線が合い、なんてアンバランスな状況だろうと笑ってしまった。


「あみか」


やけに真剣な吹雪の声。


思わず身体にシーツを巻きつけて、ベッドの上で正座をしてしまった。
吹雪はというと私の目の前で跪く。


きょとんと首を傾げていると、目の前に、


「相場と同じ給料三ヶ月分の指輪です」


「――っ」


「俺と結婚してください」


お互い素っ裸で。夜景もシャンパンもホテルでもないけど。
でも世の中の誰よりも私は幸せなのだと確信できる。


思わず泣いてしまって吹雪を慌てさせ、返答するまでに有した時間は1時間を超えたと思う。




fin.




-8-
[*←]|top|[→#]