HNで呼ばないで 5

「ん……っは……」

 俺、こんな状況なのに感じてる。

 俺の動きに合わせるように、アキラの指がゆっくりと強弱をつけながら扱いてゆく。

 他の男に触られて興奮してるなんて絶対に認めたくない。

 だけど、いつも以上に感じてしまっている自分も否定できない。

「ふ……ぁあっ」

 自分でスるのより何倍もの気持ちよさに、信じられないくらいの甘ったるい声が洩れた。

 こんな感覚は初めてで、扱かれるたびに腰が震えて直ぐに達してしまいそうになる。

「おいおい、腰が揺れてるぞ」

 頭上で揶揄するような声が聞こえるけど、今はそれどころじゃない。

 下着の中でクチュクチュっと言う音が響き、どうしようもない快感が余計に身体を熱くする。

 先走りで濡れた手にどんどん俺は追い詰められていく。

「く……ぁっあっ!」

 目の前がチカチカするほどの甘い快感と共に、俺はアキラの手の内に吐き出してしまった。

「随分早かったな」

「……っ」

 下着の中から手を引き抜き、放ったものでべとべとになった指先で俺の唇に触れる。
 ぬるっとした感触、鼻を掠める精臭。

 気持ち悪くて吐き気すら覚える。

 自分の放ったものなんて見たくない。

 顔を背けようとしたけどアキラはそれを許してくれなかった。

「まさかこれで終わりだと思ってるんじゃないだろうな?」

「へ?」

 信じられない言葉を耳にして思わず間の抜けた声が洩れた。

「お前だけ気持ちよくなってたらお仕置きにならないだろうが」

「……っ」

 俺にしてみたら、男の手でイカされたりするだけでも充分屈辱的だったんだけど。

 どうやらこれで終わらせてくれるつもりはないらしい。

 汚れた下着を膝までずり下げると腰を持ち上げられ獣のような恰好にさせられた。

「今度はなにを……ひゃっ!?」

 戸惑う俺の言葉を遮るように、尻から太腿にかけてぬるぬるとした液体がゆっくりと落ちてゆく。

「潤滑剤だ。痛いのはいやだろう?」

「当然だっ! って……まさか……っ」

 さらりと、とんでもない事を言われギクリとした。

 痛いのって、まさか……まさかっ!

 長い指がもっとも触れて欲しくない部分に当たる。

 自分でも触れたことのない部分に指を立てられサーッと全身の血の気が引いた。

「うわっ、ちょっ! そんなトコ触んな……くっ」

 慌てて腰をひいたけど潤滑剤のぬめりも手伝って、内部への侵入を簡単に許してしまう。

 内臓を抉られるような感触がなんとも気持ち悪くて仕方がない。

「離せよバカッ! 変態っ!」

 悔しくて思いつく限りの罵詈雑言を浴びせてみても、全く動じる気配はなく身体を捩れば捩るほど指が奥まで侵入してくる。

「離せと言うわりには腰が揺れてるな」

「そんなわけ……ァアッ!」

 そんなわけあるか! と言いかけて言葉にならない声が洩れた。

 内部を蠢く指が、ある一点を掠めた途端ゾクゾクするほどの甘い痺れにも似た感覚に襲われたからだ。

「ここか――」

 クチュリと指が動く。

 執拗に同じ部分ばかりを刺激され、罵声を浴びせるどころの話ではなくなってしまった。

「や……っソコ、なんだよ、ぁっあっ」

 自分の意思とは関係なしに快感を引き出され口を開くたびに声が洩れる。

 さっきイったばかりなのに、俺の下半身はもう硬くなり始めている。

 そんな浅ましい姿を見せたくなくてなんとかソレを隠そうと試みた。

 幸い、捲れ上がってはいるもののスカートがうまく隠してくれていてヤツは気が付いていないみたいだ。

 俺ばっかり、こんなに乱れてすげぇ恥ずかしい。

「随分気持ちよさそうな声を出すんだな」

「……くっ」

「……そろそろいいか」

 チュプンと言う短い音を立てて突然指が引き抜かれた。

 ――え? 

 なんで? そう思った次の瞬間。

 腰を高く抱え込まれ、熱く猛った先端が押し当てられる。

「――ぅ、あ、……っ」

 指とは全然違う、想像以上の質感に息が詰まり全身が強張る。

「息を吐け。でないと辛いのはお前だぞ」

 そんな事、言われなくたってわかってる。 

 でも、息の吐き方を忘れてしまったかのようにうまく呼吸が出来ない。

 苦しくて、痛くてもうどうしていいかわからなくなってしまった俺の股間にスルリと手が伸びてきた。

「あっ、ん……っぁあっ!」

 ソロソロと撫でられると忘れかけていた疼きが広がって甘い声が洩れる。

 その一瞬の隙を逃さずアキラがグンッと中に押し入ってくる。

 後ろの物凄い圧迫感と、荒々しいけど巧みな指使いに段々と思考がまとまらなくなってゆく。

 前と後ろを同時に刺激され、もうなにがなんだかわからなくて必死にシーツを掴んで堪えようとした。

 でも結局無駄な抵抗で――。

 痛いのと苦しいのと、今まで感じたことのない感覚に頭の中がグチャグチャで、悔しくて熱くなった目頭から涙がポロポロと零れた。

 なんで俺ばっかりがこんな目に遭わなくちゃいけないんだっ。

 ちょっとでも普通の人かも? なんて思った自分が情けない。

 あの時どんな言い訳をしてでも逃げればよかったんだ。

 そうすればこんな事にならなかったのに――。

 犯されてる筈なのにどうしようもなく感じてる。

 そんな自分の浅ましさにも嫌気がさした。

「考えごとか? 随分と余裕だな」

「違っ! ……ぁあっ、も……駄目っイくっ、ああ――っ」

 グンッと一際大きく突き上げられ、悔しいとかそんな感情すら思い浮かぶ余裕もないほどに激しく揺さぶられ、やがて俺は意識を手放してしまった。


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