HNで呼ばないで27


「怒ってないのか?」
 
不安そうに雪哉が俺の顔を覗き込んでくる。

 怒るって、何を?

 俺、雪哉と喧嘩なんて…………あ!

 そう言えば四日前、雪哉に襲われかけて泣きながら学校を飛び出したんだった。

 あんなにショック受けてたのに、綺麗さっぱり忘れてた俺って一体……。

「もしかして、忘れてたとか」

「うっ!」

 さすが雪哉だ。俺のことは何でもお見通し。

「なんだよ、あれから何日も学校に来ないからトラウマにでもなったのかと思って心配してたのに」

「……ごめん」

 ガチガチに緊張していた雪哉の身体から力が抜けた。

「いや、謝るのは俺のほうだ。あんな事して悪かった、もう二度としないから……」

「いいよ」

「えっ?」

 あまりにもあっさりとした答えに、雪哉はまた目をぱちぱちさせた。

「俺、雪哉はずっと親友だと思ってるから」

「い、いいのか?」

「もちろん、いいに決まってるじゃん」

 雪哉は幼馴染で、大事な親友。これからもそれは変わらない。

「これからもよろしくな」

 差し出された右手に自分の手を重ね、どちらとも無く笑みが零れた。

「一件落着ってところか」

「!」

 突然降ってきた低い声に弾かれるように顔を上げた。

「仲直りしたんだろ?」

「う、うん……」

 いつもと変わらない様子のアキラを見て、ジワジワと昨日の出来事が浮かんでくる。 

 恥ずかしくて、熱くなった頬を隠すように俯いた俺の頬を、アキラの長い指が捉え仰向かされた。

 切れ長の瞳と視線が絡む。

「顔が赤いな、まだ熱があるんじゃないのか?」

 ピタッとひんやり冷たいアキラの右手がおでこに当たった。

 だめだ、アキラに触れられるとドキドキして立っていられなくなる。

「――そんな可愛い顔するな。我慢できなくなる」

「……っ!」

 ボソリと耳元で囁かれ一際大きく心臓が跳ねた。

「保健室、連れて行ってやろうか」

「ほ、ほけっ、いいっ! 大丈夫だからっ」

 保健室なんて、保健室なんて行ったらそんなトコ行ったら……。

 めくるめく不埒な世界が頭を過ぎり、慌ててブンブンと首を振る。

 アキラはククッと肩を震わせると、「無理するなよ」と言ってポンッと頭を撫でた。

「……拓海、加地となんかあっただろ」

「なっ、なんかって?」

 ズルズルと崩れるように席に着いてまたまたドキリとする。

 雪哉は鋭いから何か感づいたのかもしれない。

「別に、理由なんてないけどそう思っただけだ」

 面白くないって顔をして、雪哉はぷいっと顔を背けてしまう。

 うーん、微妙だ。

 雪哉の感情がなんとなくわかってしまい、苦笑いしか出てこない。前の俺なら気付かなかっただろう微妙な男心。

 俺達は親友なんだし、ここは敢えて気付かないフリをしておこう。

 俺が好きなのは、アキラだけだから……。

 出席を取るアキラの姿を眺めていると、自然と顔が綻ぶのを止められない。

「渡瀬……、渡瀬ハル」

「って、人の名前を勝手に変えるな〜〜っ!!」

 ハルはアキラ限定のハンドルネーム。

 その名で呼ぶのは二人っきりの時だけにして欲しいよ。

 クラスメイト達のクスクス笑いを聞きながら、つくづくそう思った。 


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