HNで呼ばないで26

翌日、鈍い腰の痛みを抱えながら学校に行くと、迎えてくれたのは微妙な空気だった。

 校門をくぐった辺りから、みんながお化けでも見たような顔つきで俺を見る。

 中には俺を指差しながら何かヒソヒソと話しているヤツもいて、自然と眉間に皺がよった。

 なんなんだよ一体。誰も俺と視線を合わせようとしない。

 久々に学校に来たっていうのに、この待遇はあんまりじゃないか!

 俺は、目立つような事は何も……。

 もしかして、みんなアレに気がついたんだろうか?

 ドックンと大きく心臓が脈打ち、暑くも無いのに汗がふき出してくる。

 だって、付いちゃってるのだ。俺の身体のあちこちに昨日アキラが残していった痕が。

 親も気付かないくらいだから大丈夫! って思ったけど、もしかしたら首筋とか俺が見落としてるだけかもしれない。

 と、言うかきっとそうだ。リアルに思い至って慌ててトイレに駆け込んだ。

 でも……。


「ないっ!」


 鏡に映した自分の首筋にそれっぽい痕は見つからない。それどころか、おかしな箇所なんて何処にも無かった。

 表面上はいつもと同じ。じゃあどうして?  ……わからない。

 理由がわからないのにジロジロと見られるのはあまり気分がいいものじゃない。

 俺が自意識過剰になってるだけ? 痛いほど感じる視線を気のせいだと言い切るにはちょっと無理があるような。

 釈然としない気分で席に着くと、俺に気づいた鷲野が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「拓海、久しぶりだな! 中々学校来ないから心配したぞ」

 よかった。鷲野は前と変わらないみたいだ。

「ごめんな。久々に熱出しちゃってさ……」

「そっかぁ、熱だったのか。元気だけが取り柄なのに珍しいな」

「元気だけが取り柄って、ひどい言い方だな」

 否定できないのが悔しいけど。

「そんなことより、なんでみんな俺のほうジッと見てるんだ?」

 俺の質問に鷲野がハッと息を呑む。

 「なんだよ、その沈黙は……」

 俺、何か変なこと聞いた? この微妙な空気は、何?

 わけがわからず戸惑っていると、鷲野が小さく「あっ!」と、声をあげた。

 その視線をたどって行くと、ちょうど雪哉が教室に入ってきたところだった。

「おはよ、雪哉」

「!」

 話しかけた途端、雪哉の身体が大きく跳ねて目を瞬かせる。

そして、周囲が水を打ったように静まり返る。

 え? あ、あれっ?



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