HNで呼ばないで23
すまない。頭を下げられて、俺は慌てて布団から這い出した。
だって、謝って欲しかったわけじゃない。
「もう渡瀬に関わらないようにするから安心しろ」
じゃぁ、俺はこれで。そう言ってドアノブに手が掛かる。
なんだかアキラとの間に見えない溝があるような気がして息苦しい。
もう関わらないようにって、もう俺とは話さないって事?
これから卒業するまでずっとこのまま……。
考えるより先に身体が動いていた。ベッドから転がり落ちるようにして飛び出すと、今まさにドアを開けようとしていたアキラの手を止めた。
「……アキラともう話せないなんてそんなの嫌だ!」
「渡瀬?」
「このままアキラが遠い存在になるんだったら、春香さんの身代わりのままでいいっ」
何を馬鹿なことを言ってるんだと自分でも呆れてしまう。
だけど、大勢の中の一人として扱われるくらいなら身代わりとしてでもいいから側に居たい。
「……馬鹿だな」
そう呟くと同時に、グイッと腕を引かれ強く抱きしめられた。
「確かにお前が言うように、初めて会った時はそうだったかもしれない。だが今は違う。お前と共に過ごしていくうちに、段々惹かれていくのがわかった。俺はお前が好きだ。他の誰でもない渡瀬拓海が好きなんだ」
アキラの胸の中で、はっきりと気持ちを聞いた。俺と同じ気持ちなんだ……。温かい体温に包まれて、今まで不安だった気持ちがすーっと晴れていく。
広い背中に腕を回すと、さらに強く抱きしめてくれる。それが凄く嬉しい。
「渡瀬……」
熱っぽい声で呼ばれ、そろりと顔を上げた。
目を閉じるのも待ってもらえず唇が重なる。情熱的な口付けに身体が急激に熱くなった。しっとりと唇を吸われジワジワと痺れにも似た甘い感覚が迫りあがってくる。
「ん……っン……」
駄目だ、立ってられない。くらくらするほどの甘いキスに膝が笑って折れそうになった。アキラが腰を支えていてくれなかったら、その場に崩れ落ちてる。
「ベッド……行くか?」
そっと唇を離して囁かれ、熱で浮かされたようになっていた俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。
ベッド? それってもしかして。
一階には母さんがいる。もし部屋に上がってきたら……。
「……冗談だ。風邪、ぶり返したら大変だからな」
ほんの僅かな動揺を見透かしたようにアキラがジワリと苦笑した。
スッと密着していた身体が離れ、体温がスーッと下がっていく。
「待って! いいから……」
「ん?」
「俺、アキラになら、何をされても構わない」
自分で自分の言ってる言葉が恥ずかしかったけど、そんな事はもう関係ない。しがみつくようにして見上げるとアキラの頬が僅かに赤く染まって、ふわりと抱きかかえられた。
そっとベッドに寝かされ、続いてアキラが覆いかぶさってくる。
「たくっ、煽るなよ」
「俺は別に煽ってなんか……」
「無自覚なのか、それはまずいな」
「まずいってなに……ひゃっ!?」
ボソリと呟いたかと思ったら、いきなり首筋に鼻を寄せてぺろりと舐められた。
あまりの事に驚いて固まった俺を見て満足そうに微笑むと今度は同じところに吸い付いてくる。
「ん……っ」
少しずつ角度を変えながら色々なところに吸い付かれてぞくぞくと身体が震える。
パジャマのボタンを外され、露になった胸板に手のひらが触れた。ゆっくりと身体のラインをなぞられ神経が集中する。
どうしよう、アキラに触れられた部分が熱い。全身がアキラの動きに敏感になっているのがわかる。