HNで呼ばないで18

「雪……?」

「前から拓海に聞こうと思ってたんだけど……お前と加地って付き合ってるのか?」

「……は?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 突拍子もない質問に、目が点になる。

 俺とアキラが付き合ってる?

 そんな事あるわけないじゃないか。

 何処をどうやったらそんな思考に行き着くのか、全然理解できない。

「何馬鹿なこと言ってんだよ。付き合ってるわけないじゃん」

「それは本当だな?」

 なおも疑いの眼差しを向けてくる雪哉に俺は思いっきりコクコクと頷いた。

「俺もアキラも男同士だぜ? あるわけ無いよ」

 そう言うと、ようやく納得したのか雪哉がふぅっと肩の力を抜いた。

「話はそれだけ? だったらもう戻ろうぜ」

 こんなくだらない質問をするためだけに屋上に呼び出すなんて雪哉もどうかしている。

 ちょっと考えたら直ぐにわかることじゃないか。
 
 流石に寒さの限界で、一刻も早く中に入りたい一心でドアノブに手を掛けた。
 
――だけど。

「拓海。俺と付き合ってくれ!」

「――へ? えっ、ちょっ」

 いきなり肩を掴まれてドアに押し付けられた。

 冷たい鉄の感触にゾッと背筋が粟立つ。

「雪哉……お前、何か悪いものでも食ったのか?」

 学校に着いてから、様子がおかしい。

 こんな笑えない冗談を言うようなヤツじゃなかったのに。

「俺は真剣だ。拓海の事がずっと前から好きだった」

「ちょっ、何言ってんだよ雪哉っ」

 好きって、好きって――っ。

「嘘だろ?」

「こんな恥ずかしい嘘吐くかよ」

 ポロリと出た言葉に雪哉が不満そうな声をあげる。

 確かにそうだけどさ、でも、でも……。

 出来れば嘘であって欲しい。

「俺、お前の事は友達としてしか……」

「加地は」

「えっ?」

「加地はどうなんだよ。好きなんだろう? アイツの事」

 いきなりの質問に胸がドクンと大きく跳ねた。

 俺が、アキラを?

 それは違うと即答できない俺に、雪哉の目がスーッと細められる。 

「最近、拓海はあいつの事ばかり見てる。俺が側にいるのにアイツの事ジッと見て、放課後だって嬉しそうに資料室に行っちまうし」

「ちょっと待てっ! 俺は別に嬉しそうになんかしてない」

 あれはアキラが脅すから仕方なく行っていただけ。

 嬉しそうになんて、そんなことあるはずがない。

「自分で気づいてないだけだ!」

「っ!」

「とにかく、俺はもうこれ以上拓海を誰かに取られるなんて嫌なんだ。そんなの耐えられないんだよ!」
 
ガシッと音がしそうなほど強く肩を掴まれ、嫉妬を含んだ熱い瞳が俺を見据える。

「俺は……拓海が好きなんだ。誰にも渡したくない」

 呻くような声と共に唇にギュッと何かが押し当てられた。

 噛み付くような鋭いキスは強引に俺の口をこじ開けようとする。

「や……っ!」

 咄嗟に両手を突っぱねて腕の中から抜け出そうとした。

 だけど遥かに雪哉の力が上だった。

「ちょっ、止めろよ雪哉っ! これは何のつもりだよ!」

「言っただろ。俺にはお前が必要なんだ。誰かに取られるくらいなら俺が全部奪ってやる!」

 獲物を見つけた肉食獣のようなギラギラした瞳が俺を捕える。

 指がブレザーのボタンを引きちぎり鎖骨の辺りに鈍い痛みが走った。

 このままじゃ俺本当にやられる――っ。

「やだっ、いやだって! 止めろよ雪哉ぁっ!」

 俺がどんなに嫌だと叫んでも、雪哉が止めてくれる気配は無い。

 うしろの壁に押さえつけられてるから逃げ場はない。

 痛みと恐怖で怯える俺に圧し掛かるようにして雪哉の手がズボンに伸びた。

 とにかく、怖いやら、悔しいやら、泣きたいやらで頭の中はもうグチャグチャ。

 自然と目から涙がポロポロと零れ、頬を伝った。

「も……止めてくれよ……お前はこんなことして楽しいのか」

「拓海、俺はお前を泣かせたいわけじゃ……」

 ほんの一瞬、雪哉に動揺の色が走る。

 僅かに力が弱まった瞬間、俺はありったけの力を振り絞って雪哉の身体を突き飛ばしていた。



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