HNで呼ばないで17

「昨日ね、彰先生に駅まで送って貰っちゃったぁ」
 
翌日、学校に着くと廊下でそんな会話をしている女子と出くわした。

 周囲から羨望の眼差しを受け、得意げに彼との短いドライブに到った経緯を話しているのは、昨日の彼女。

『彰先生』だって?

 アイツの何処がいいんだか。

 男を強姦したりするような変態なんだぞ。

 たかが駅に送ってもらったくらいで喜ぶなんて大袈裟じゃないか。

 あまりにもアイツの本性を知らなさ過ぎて思わず鼻で笑ってしまいたくなる。

「もしかして、妬いてる?」

「は?」

 突然降って沸いた声。

 気がつくと一足先に教室に入ったはずの雪哉が覗うように俺を見つめていた。

「そんなわけないだろっ、さっきの会話の中で妬く要素が何処にあるんだよ!」

「すげぇ怖い顔してあの娘を睨んでたからてっきり妬いてるのかと思った」

「いや、睨んでないから」

「そうか?」

「そーだよっ! おかしなこと言うな!」

 自分でも何をそこまでムキになって否定してるんだって、思った。

 あの娘を睨んでたなんて認めたくない。

「……拓海、ちょっといいか?」

「え? なんだよ。もう直ぐHR始まるのに」

 ほんの一瞬、雪哉の顔から笑顔が消えた。いつになく思いつめたような真剣な顔。

 真面目な話かと思い、取り敢えずカバンを置いて頷く。

 そして俺は雪哉と教室を抜け出して、屋上へと足を運んだ。

 授業が始まる直前の廊下は薄暗く、不気味なほど静まり返っていた。

 こんな所に来なきゃいけない話ってなんだろう? 鷲野達に聞かれたくない話なんだろうから余程重要な話かもしれない。

 でも、さっきまでそんな素振りは全然なかったし。最近の雪哉は結構ナゾだ。

 考えてみても雪哉の考えがわかるはずもなく、俺は諦めて雪哉の後をついて行く。

 屋上に続く鉄製のドアを開けると同時に凍てつくような冷たい風が襲いかかってくる。

 空は今にも泣き出しそうな色。もしかしたら雪でも降ってくるんじゃないかって言うくらい寒い。

「話ってなんだよ」

 早く用件を済ませて教室に戻りたいのに雪哉は中々口を開こうとしない。

 余程言いにくい事でもあるのか、何か言いかけてはハッとして口をつぐむ。

 いつもの雪哉なら言いたいことはその場でハッキリと言うはずだ。

「雪哉? どうしたんだよ」

 入り口に佇んだまま動こうとしない雪哉に痺れを切らして、顔を覗き込むと切なげな瞳とぶつかった。

 いつになく大人びたような表情に思わずドキリとなる。


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