HNで呼ばないで12

 ファミリーゲレンデは山の中腹にある、なだらかなコース。
 俺には無理だって言ってたからどんな高いところかと正直ビビってたけど、全然そんな事はなくて俺より小さな子供もバンバン滑っている。
「なんだ、このくらいなら俺だっていけそうじゃん」
「そうか? 緩やかだが長いコースだからな、派手にこけて泣くなよ」
「泣かね〜よっ! 馬鹿!」
 ククッと笑いながら先に滑り出したアキラを慌てて追いかけたけど……。
「うわっ、と、とととっっうわぁっ!」
 うまくバランスが取れなくて、その場にドスンと尻餅をついた。
「いててっ」
「おいおい、まだ一メートルも進んでないじゃないか」
「うるさいな。ちょっと失敗しただけだ」
 差し出された手を払いのけて、もう一度滑りだす。
 でも……。
 直ぐにバランスを崩して、転んで、アキラに手を差し伸べられて。結局、何度もこの繰り返し。
「つ、疲れた……」
 ようやく一番下まで辿り着いた時にはもうヘトヘトで崩れるようにその場にへたり込んだ。
 何回も雪の塊に突っ込んだから全身雪まみれ。体が重くて凄くだるい。
 スノーボードがこんなに全身を使うスポーツだったなんて知らなかった。 
「ご苦労さん。よく頑張ったじゃないか」
 俺より先に着いていたアキラが涼しい顔してスポーツドリンクを差し出してくれた。
 礼を言って受け取ると、「どうだった?」と聞いてくる。
「楽しかったけど、俺には向いてないかも」
「何言ってるんだ。スノボは三回目でやっとその楽しさがわかるんだぞ」
「へぇ、そうなのか」
 じゃぁ俺も三回くらい通えばアキラみたいに自由自在にボードを操ることが出来るのかな?
 三回どころか十回行ったって、俺にはとてもじゃないけど無理そうなんだけど。
 真っ白な雪の上を、道路でスケボーにでも乗っているかのように鮮やかに滑るアキラの姿。ジャンプしてるとこなんか本当に空を飛んでるみたいだった。
 凄くかっこ良かったな……。
 あんな風に高くジャンプできたらどんなに気持ちがいいだろう。 いつか一緒に並んで滑ったり出来る日が来るんだろうか?
 チラリと視線を向けるとにっこりと微笑まれた。
 その眼差しに何処となく甘い雰囲気が漂っているような気がしてなんだかドキドキしてしまう。
「そろそろ帰るか、日が暮れると冷えてくるからな」  
「あ、うん。そうだな」 
「どうした? 顔が赤いぞ」
「な、なんでもないっ!」
 赤くなった頬を隠すようにして立ち上がった俺をアキラは不思議そうに見ていたけど、それ以上追求してくる事はなかった。


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