HNで呼ばないで10
「なぁ、なんで俺なわけ?」
「何が?」
資料室での出来事から一週間、何故か俺は資料室の整理(と言うか大掃除)を手伝わされる事になってしまっていた。
アキラ直々のご指名に逆らえない自分が悔しい。
もし断ったら、例のアレをバラされそうだから、仕方なくだ。
「俺なんかより取り巻きの女の子達に頼めばいいじゃん。アンタと一緒に居れるんならきっと飛んで喜ぶと思うぜ?」
整理整頓なら女子の方が断然得意なはずだ。俺も元々そんな几帳面なほうじゃないし。
「ハルとやった方がはかどるからな」
「なんだよそれ」
俺だったら野郎と顔付きあわせて埃っぽい部屋の整理するより、可愛い女の子に囲まれてやる方が断然やる気が出ると思うけど。
「安心しろ。ちゃんと後で礼はしてやるから」
「どうせまた変な事するんだろ」
「変な事? 例えば?」
ニヤリと笑われて言葉に詰まる。
わかってるくせに、わざと言わせようとするなんて性格悪い事この上ない。
「とにかく! お礼なんていらないから。俺はさっさとこの汚い部屋を片付けて帰りたいだけだ」
「ほお、じゃぁ仕方ない。スノボは無しだな」
「へ? スノーボード?」
いきなりの話題に思わず作業の手を止めアキラの顔を見た。
アキラは意味深な笑みを浮かべ、ポケットから取り出した一枚のチラシを目の前に広げる。
そこには真っ白な山とリフトに乗った男女の絵が描かれていて、中央にスキー場がデカデカと掲載されている。これが、なんだって言うんだ?
「明日休みだろ? リフトの割引券が手に入ったから、連れて行ってやろうと思ったんだが……」
「うそっ、マジ!?」
「前に行ってみたいって、言ってたからな」
確かに初めて会った時、話の流れでそんな事を言ったような気もする。
その後がアレだったから以前の会話なんてすっかり忘れてたけど。
アキラはちゃんと覚えてたんだ。
「ハルが礼はいらないと言うなら仕方ない」
「行くっ! すっげー行きたいっ!」
うちの親は絶対連れて行ってくれないし、高校生のしがない小遣いじゃ交通費だけで精一杯で行くのは無理だと思ってたから、行けるなら嬉しい!
我ながらゲンキンだなぁと思うけど連れて行ってくれるって言うなら話は別!
ただの変態だと思ってたけど、本当は凄くいいヤツじゃないか。
「今週は頑張って沢山手伝ってくれたからな」
言いながらクシャッと頭を撫でる。
「ガキ扱いするなよ」
「俺からすれば高校生なんて、充分ガキだ」
それを言われたら身も蓋も無い。
「明日朝一で迎えに行くから」
柔らかく笑顔で言われて、ほんの少しドキッとした。
「スノボ……か」
スキー場ってどんなところだろう? アキラがくれたチラシを見つめ思いを馳せる。
「おいおい、楽しみなのはわかるけど、今日中に資料整理終わらせてからだぞ」
「わかってる! こんなのすぐ終わらせるよ」
その後、いままでに無いくらいのスピードで部屋の片付けを終わらせて家に帰った。
あまりの速さに驚いて、ぽかんと口を開けてたアキラの顔が凄く可笑しかった。