Secret Admirerer6
ところが、いくら待っても本田の身体に変化が現れる様子は無く、時間ばかりが普通に過ぎてゆく。
(おかしいな。確かに本に書いてあるとおりに調合した筈だが……)
「アーサーさん? 先程から黙ってますけどどうかしましたか?」
「あ? いや。なんでもねぇ……それより菊。お前、身体はなんともないか?」
「身体、ですか?」
思い切って聞いてみると、本田は不思議そうに首を傾げた。
「私はいつもと変わりませんよ。今は腰痛もさほど酷くはありませんし」
「そ、そうか。ならいいんだ」
「?」
(しまったな。こうなら誰が一人実験台にして先に効果を試しとけばよかったぜ)
後悔先に立たず。かなり期待していただけに効果がないとわかった後の落胆は大きい。
そう思ったら急に腹が減ってきて、アーサーの腹の虫がキュルルル〜と切ない鳴き声を上げた。
「そういや。腹減ったな」
「そうですね、そろそろ夕食の時間ですし。私、準備してきます」
「あぁ。よろしく頼む」
クスクス笑いながら、素早く割烹着を身に付けスクッっと立ち上がった本田だったが、一瞬よろけてふらりと柱にぶつかりそうになった。
「おい大丈夫なのか?」
「えぇ。急に立ち上がったのでちょっと立ちくらみがしただけです」
「……」
よろけた事が恥ずかしかったのか本田は慌てて笑顔で取り繕いそそくさと部屋を出て行ってしまう。
(今のは偶然なのか?)
耳まで赤く染めて台所へ向かう本田の後ろ姿をアーサーはジッと見つめていた。
(困りました。さっきからなんだか身体が熱いような気がします)
台所で料理を作っていた本田は自分の身体に起き始めた急激な変化に戸惑いを隠しきれずにいた。
つい先程まで何も無かったのに、急に気だるいような感覚に襲われて堪らずシンクに手を突いてハァと息を吐く。
「なぁ、俺もなんか手伝ってやろうか?」
突然後ろから声を掛けられて本田の肩が大袈裟なほどびくりと震えた。
「い、いえっ。お客様にそんな事をさせるわけにはいけませんので。アーサーさんはゆっくりと休んで居て下さい」
あまりにも驚いたので思わず声が裏返ってしまった。慌てて手に持っていたキュウリを握り直し平静を装うものの何かピーンと来るものがあったのかアーサーは後ろから抱き締めるように身体を密着させてくる。
「いいじゃねぇか。俺、暇なんだよ」
「……っ、じゃぁ漫画でも読んでいればいいじゃないですか。沢山ありますから」
「漫画ねぇ。悪いけど俺そう言うのにあんま興味ねぇんだよ。菊とこうしてた方がよっぽど楽しいしな」
言いながらゴソゴソと服の中に手を差し込んで来る。いつもなら簡単に素肌に触れさせる事などしないのだが、アーサーの気配だけで息が上がってしまい本田は動けなくなってしまった。
「あっれ? お前乳首こんなに硬くして、どうしたんだよ。キュウリ見て興奮したのか?」
「ち、違いますっ! 私は別にきゅうりを扱いててこんな風になったわけでは……あっ」
胸元の飾りを指で刺激しながら、耳元で揶揄するような声が響く。アーサーのその声にすらゾクゾクして本田は堪らず熱い息を吐いた。