Secret Admirerer5
みんなと別れた後、一緒に食事をしようと約束していた二人だったが何処の店もカップルで混み合っていてとても入り込めるような雰囲気ではなかった。
仕方なく「私の家でよろしければ」という本田の提案に甘える形で彼の家にお邪魔する事に。
「たくっ、アルの奴わざとでけぇ声で読み上げやがって。お陰でとんだ大恥かいたぜ」
「すみません。私が読んで下さいとお願いしなければこんな事にはならなかったのに」
「いや、菊の所為じゃねぇ。お前が読めない事を考慮しなかった俺が悪かったんだから気にするなって」
シュンと俯いて落ち込んでしまった本田を慰めるようにアーサーは背中をそっと撫でた。
せめて差し出し人くらいはきちんと書いておくべきだったかと、今更ながらに後悔する。
「そう言えばアーサーさん。アレ、結局なんて書いてあったんですか? なんか凄い事言われたような気がしたんですけどアーサーさんが大きな声で騒いでいたのでよく聞き取れなくて……」
「あ? あぁ、あれは……そのっ、深い意味はねぇんだ! だから気にすんなっ!」
「でも、せっかくいただいたお手紙なんだから出来ればアーサーさんに直接読んでいただきたいです」
「う……っ。つか、辞書があるから自分で調べればいいだろ?」
言いながらアーサーの頬がみるみるうちにバラ色に染まっていく。
そんな恥ずかしい言葉が書いてあるのか? と、興味はあったが辞書で調べろと言われてしまってはこれ以上強気で頼むわけにもいかず本田は渋々頷いた。
「そんな事より、お前やけに沢山配ってたじゃねぇか。俺にはくれなかったくせに」
「あぁ。アレは義理チョコというものです。アーサーさんのはまた別にあるので……」
皆さんと大きさが違ったら怪しまれるでしょう? と、言いながら本田は鞄の中から一つの小箱を取り出した。
「お口に合うかどうかはわかりませんが……」
「お前がくれたもんがマズイわけねぇよ」
不安そうに見つめる本田の頭をフワリと撫でて、アーサーはゆっくりと包装紙をほど解いていく。
中から出て来たのはワインボトルの形をしたチョコレート。
「お酒好きなアーサーさんならきっと喜んでくれるんじゃないかと思いまして」
「ウィスキーボンボンか。悪くねぇ。しかもこれモロゾフじゃねぇか。今は生産量が少なくて中々手に入らないって言う代物だぜ」」
手作りチョコじゃなくてほんの少しがっかりしたものの、わざわざ自分の為に用意してくれた事が嬉しくて胸に熱いものが込み上げてくる。
一つ口に含めば、じゃりじゃりとした砂糖の食感とチョコの甘さ、それに加えて喉がカァッと熱くなるような度数の高いアルコールが口中に広がって行く。
「サンキュウな菊。それで……俺のヤツなんだが、もう食ったのか?」
「いえ。まだここにあります」
「なんでだよっ。んな大したものじゃねぇんだからさっさと食えばいいのに」
「……せっかくアーサーさんから貰ったものですから最後のお楽しみに取っておこうと思いまして」
見た目からして手作りだと想像出来る為、恐ろしくて食べる勇気が出ないとは言えない。
「俺、お前が食ってくれるの楽しみにしてたんだぞ」
だから早く食えと急かされて本田は言葉に詰まる。彼の料理がマズイ事はよく知っているので出来れば遠慮したいところだが自分の為を思って作ってくれたものを無下には出来ない。
(ま、まぁアルフレッドさんの作ったモノよりマシ、ですかね。一応茶色いですし……)
「大丈夫だって菊。妖しいものはいれてない。至って普通のチョコだから安心しろよ」
”普通のチョコ”を強調するアーサーと、いかにもマズそうなそれを見比べ本田はひっそりと息を吐いた。
もしものために胃薬を準備すると、息を止めて思い切って口の中にほうり込んだ。
激マズだったらどうしようかと思われたソレは、喉に張り付くほど甘くてクラクラした。
思わずむせ込みそうになり本田は急いでお茶で無理やり流し込んだ。
「ど、どうだ?」
「はひ。……ちょっと変わった味はしますが食べられない程では無かったです」
本田が呑み込んだのを確認し、アーサーは心の中でガッツポーズ。
(これで菊は俺の計画どうりに――)
あと数分もすればきっとメロメロになる筈だ。積極的になった本田のエロい姿を想像し思わず顔がニヤけてしまう。
「なに変な顔してるんですか?」
「なっ、なんでもねぇ。気にするな」
慌ててペチペチと自分の頬を叩くアーサーを見つめ、本田は不思議そうに首を傾げた。