Secret Admirerer4
「アーサーさん……あの」
不安げな本田が戸惑いながらアーサーの元へとやってきたのは会議が終わって直ぐの事。
その手にはアーサーが書いた直筆のメッセージを持っていて、彼は動揺した。
「な、なんだ?」
「私の机の上に、メッセージを添えた贈り物が置いてあったんですが……なにやら怪奇文章のようなものが記されていて,読めないんです。送り主も誰なのかさっぱりわからなくて」
「よ、読めない!?」
(しまった! そう言えば日本はまだ片言の簡単な英語しか理解できないんだった!)
「それで、その……この文章を私に理解出来るように訳して貰えないでしょうか?」
「お、俺がか!?」
まさか自分で書いた文章を自分で読む事になるなんて! 読むのは簡単だがそんな事恥ずかしすぎて出来ない。
「駄目でしょうか?」
本田が悲しそうな表情で尋ねてくる。アーサーはどう答えればよいのか迷った。
と、その時。
「なんだい、菊。英語なら俺が読んでやるよ」
「!!!」
「アルフレッドさん」
突如、後ろから現れたアルフレッドが本田の持っていたカードをひょいと取り上げた。
そしてその文章に目を通し、チラリとアーサーの方に視線を向ける。
「てめっ! 馬鹿! それを読むなっ!」
「アーサーさん?」
急に慌てだしたアーサーを見て首を傾げる菊。
「えーと、愛しの菊へ。貴方は僕の人生で唯一大切な人です。君のいない人生なんて僕はとても耐えられない。君は僕の輝く太陽さ。君の温もりが無かったら僕の人生は――」
「読むなって、言ってんだよっ!!! つか、離せフランシス! てめぇには関係ないだろうがっ!」
手紙を取り返そうと立ち上がったアーサーだったが騒ぎを聞きつけたフランシスに羽交い絞めにされ身動きが取れない。
「いや、なんか面白そうなもの読んでるから。愛の言葉は最後まで知りたいだろ? ね、菊ちゃん」
まさか自分に充てたラブレターだったとは知らず、本田は戸惑ってしまった。あのアーサーの慌てぶりからして送り主が彼だと言う事は容易に想像がついた。
真っ赤になって慌てるアーサーをもっと見ていたいような気もするし、確かに最後まで内容を知りたいとは思う。でも、どうせ聞くならこんな公開プレイではなく、直接本人の口から言って欲しい。
「あのっ、アルフレッドさん。大体の内容はわかりました。あとは自分でなんとかしますからそれを返してくれませんか?」
「えーっ? もういいのかい?」
「えぇ。送り主がわかっただけで私は十分です」
つまらなそうに口を尖らせ手紙を見つめるアルフレッドに本田はにっこりと笑顔で手を差し出した。
「これは、大事に取っておきますから」
アーサーが自分にラブレターをくれた。それがわかっただけでもなんだか幸せな気分だ。
「……なぁ菊。この後はもちろん空いてるよな?」
読まれた事が余程恥ずかしかったのか、そっぽを向いたまま尋ねられて本田は小さく「はい」とだけ答えた。