Secret Admirerer3
そしてヴァレンタイン当日。アーサーは自作のチョコレートを持っていつもより一時間早めに会議室へとやって来た。
そして本田の席を確認すると、こっそりその机の片隅にチョコレートを置く。
(よし、これで準備はOKだ)
自作のメッセージを添えたカードも忍ばせたし、綺麗にラッピングもした。後は本田がそれに気が付いて食べるのを待つだけだ。
それから先の事を想像するだけで、頬が緩んでしまう。
「あれ? アーサーやん。いつも早いけど今日はさらに早いなぁ」
「っ! よ、よぉアントーニョ。まぁ、紳士たるもの時間には正確じゃなきゃいけないからな」
突如ひょっこりと現れたアントーニョに内心ドキドキさせられながらも平静を装って自分の席に着く。
少しずつ集まって来るメンバーをチェックし、アーサーは段々そわそわと落ち着かなくなった。
いつも早めに来る筈の本田がまだ来ていないのだ。
(まさか欠席とかって言う事はないよな?)
一抹の不安が過る。よほど携帯で確認してみようかとも思ったが、開始まであと三〇分もある為それは止めた。
あくまでも平静を装っていなければ。
そうこうしている間にも各国が続々と集まって来て静かだった会場は一気にざわめき始める。
「やぁアーサー。例の物はもう彼に渡したのかい?」
何度も時間を確認し本田の到着を今か今かと待ちわびているとアルフレッドがによによしながら声を掛けて来た。
「いや、まだだ。肝心の菊がまだ来てねぇんだよ」
アーサーははぁっと小さく溜息を一つ。
「ふぅん。つまらないな……ま、上手く渡せたら感想聞かせてくれよな☆」
「安心しろ。例え上手くいってもてめぇにはぜってぇ教えないから」
はなからアルフレッドに結果を教えてやるつもりなんか無い。まぁ、向こうも教えて貰えるとは思っていないのだろうが。
と、その時だった。
「遅くなってすみません」
「!」
開始一〇分前になって、お目当ての人物が登場しアーサーはゴクリと息を呑んだ。
いつもの白いスーツを着込んだ本田は今日はなにやら大きな荷物を抱えている。
(もしかしてアレ全部貰ったやつか?)
アーサーは頬を引き攣らせ、本田の荷物をジッと凝視した。
「これ、受け取って下さい」
「えっ? 俺にくれるのかい? 菊」
「えぇ。今日はヴァレンタインですからね」
本田は袋の中から一つづ箱を取り出すと、今日集まっている全員に小さな包みを渡し始めた。
(なんだ……貰い物じゃ無かったのかよ)
ホッとするアーサーだったが、本田がにっこりと笑いながら他の国にチョコを配りまくっているのを見るのは何となく面白くない。
(義理チョコなんて、別に配る必要ねぇじゃん)
中にはあらかじめ用意していたプレゼントを本田に渡すものまで居て、アーサーは不貞腐れたように頬杖を突いてその様子を眺めていた。
そうこうしているうちに、会議開始の時間になり本田がようやく自分の席に戻ってきた。
机の上に置かれた箱に気付くと、一瞬驚いた表情を浮かべる。
そして、流石にこの場で開けるわけにはいかないと判断したのか、カードだけ抜き取るとその箱をスッと自分の鞄にしまい込んだ。