Secret Admirerer 2
「……何を一人で鼻血垂らしながらニヤついているんだい?」
突然声を掛けられ,アーサーはハッと我に返った。
そこは本田の家でもなんでもなく自分の家の地下実験室。
しかも目の前にはシェイクを片手に哀れなものを見るような目でこちらを見ているアルフレッドが居て、アーサーは慌てた。
「な、なんでお前がこんな所にいるんだよ!」
「いいじゃないか別に。暇だったから遊びに来てやったのにその言い草はないだろう? てゆぅか鼻血拭いた方がいいよ、君」
呆れたように肩を竦ませ、ティッシュを差し出すアルフレッド。アーサーはそれを受け取るとティッシュを鼻に詰め込んだ。
「そ、そうか……悪い」
「で、何を作っているんだい?」
「見りゃわかんだろ? 何処からどうみても(媚薬入りの)チョコレートじゃねぇか」
「ええっ!? こ、この妖しい物体、チョコレートだったのかい?」
驚愕の声を上げ、鍋の中身を恐る恐る覗きこむ。そして、ポツリと呟いた。
「君はこれで大量殺人でも始めるつもりなのか? なんか凄くまずそうなんだけど……」
「てめっ、失礼な奴だな! んなわけねぇだろうがっ」
「だってコレ、なんだか変な匂いがするし」
眉を顰めもう一度鍋の中を覗き込む。色は確かにチョコのようだが鼻をつく匂いはとても美味しそうには思えない。
「でもなんでまた急に君がチョコ作りなんか始めたんだい?」
「なんでって、もう直ぐバレンタインだろ? アイツの家では、バレンタインにチョコを贈る習慣があるって聞いたから……」
鍋を見つめポッと頬を赤らめるアーサーを見て、アルフレッドは成程。と納得してしまった。
「でも、チョコなら普通にその辺で買った方が絶対菊は喜ぶと俺は思うな」
「うっせーよ馬鹿っ。本命チョコって言うのは手作りした方が思いが伝わるもんなんだ。アイツの家にあった本にそう書いてあったからな!」
「ふぅん。俺にはよくわからないが、君がそんな乙男だったとは知らなかったよ」
「だ、誰が乙男だっ! 俺はただアイツに媚薬入りのチョコを食わせたくてわざわざ……」
「へぇ〜、媚薬入り。ねぇ」
しまった! と、思った。だが時は既に遅し、アルフレッドは面白い事を聞いたとばかりにによによと笑いながらシェイクに口を付ける。
「ま、君がお菓子作りなんておかしいとは思っていたよ」
「てめっ俺がこれを渡すまで絶対に菊にばらすなよ! じゃないとてめぇを呪ってやるからな」
「OK♪ 当日までは言わないと約束する。別に君に呪われたって怖くもなんともないけど、なんだか面白そうだからね」
”面白そうだ”と言う単純な理由で納得をしたアルフレッドは、これはいい退屈しのぎになりそうだとアーサーのチョコレート作りを手伝う事にした。