アレ・コレ考えたって5

「おい、本当に大丈夫なのか? 取り敢えず、ゆっくり休めよ」

「はい。ありがとうございました」

結局ルートヴィッヒさん達にタクシーで送って貰い、家に辿り着いた時には日付が変わってしまっていた。

流石に少し飲み過ぎましたかね……。

ペース配分を全く考えていなかった所為で、足元がなんだかフラフラしています。

これと言うのも全部アーサーさんが悪いんですから。

自宅の門をくぐり何度か休憩を挟みながら石畳を歩いていると、玄関前になにやら人影らしきものがある事に気が付いた。

「――よぉ、随分と遅いお帰りだな」

「アーサーさん!? ど、どうしてココに?」

まさかこんな時間に彼が立っているとは思わず幻でも見てしまったのではないかと目をごしごしと擦ってみた。

もう一度目を凝らして見ても、やっぱりそこにはアーサーさんの姿。

「まぁいい。……その、昨日は悪かったな。それだけ言っておこうと思って……」

まさか、私に謝る為だけに昨夜から待ってくれていたんでしょうか? この寒空の下で?

「何やってるんですか……謝るくらい電話でも出来たじゃないですか」

「どうしてもお前に直接言いたかったんだよ。俺の勝手な都合押し付けて菊の気持ち全然考えて無かった。ほんと、悪かったと思ってる」

すまない。と頭を下げられて、私は軽い目眩を覚えた。

「信じられない……こんな事して風邪でもひいたらどうするんですか!」

「このくらいの寒さで俺が風邪なんかひくわけねぇだろ? うちの方がもっと寒いからな」

「そう言う問題じゃないです……馬鹿ですよ。待っててくれるって知ってたら私だって、こんな時間まで飲んだりしなかったのに……」

頬に触れるととても冷たくて、今にも凍ってしまいそうな程。

「本当に……貴方は馬鹿です」

「そうだな。お前の事になるとどうしても自制心が利かなくなっちまう。もっと優しくしてやりたいのに、お前が他の国と喋っているのを見るだけでどうしようもなく苛々して感情のコントロールが出来なくなるんだ。いつも傷つけてばかりで本当にごめんな」

そう言いながら、そっと私の身体を包み込むように抱きしめてくれる。それに応えるように私も彼の背にそっと腕を回した。

「もう、いいです。貴方の馬鹿な行動の所為で、何を怒っていたのか忘れてしまいました」

「菊……」

視線が絡んでゆっくりとアーサーさんの顔が近付いて来る。チュッと触れ合うだけのキスは暖かく心地いい。

「あ、そうだ」

「どうかしたんですか?」

キスの余韻に浸っているとアーサーさんが何かを思い出したように身体をスッと離した。そして徐に自分の荷物の中から何かを取り出して戻って来る。

一体どうしたというのだろう?  

「……これ、やる」

「えっ?」

すっと差し出されたのは沢山の真っ赤なバラの花束。

「お前今日、誕生日だろ? 色々考えたんだが結局何も思いつかなくて」

突然の出来事に驚いて声も出せないでいると、照れ隠しなのか、そっぽを向いたまま強引に私の腕に花束を押しつけてくる。

「誕生日……そう、でしたね。私、すっかり忘れていました」

「忘れてたって、お前」

「ありがとうございます。……ん? これって……」

花束を受け取り、バラの高貴な香りを胸一杯に吸い込んでいると、花束の中に月明かりで何かキラリと光るものが。

小さな蕾の部分に小さなシルバーのリングが掛けられていて、私は思わずアーサーさんの顔とそれを見比べてしまった。

「花束だけじゃ芸がないと思って。たまたま俺の家にあったから……その、お、おまけだ。別にこの日の為に特注したわけじゃないからな!」

「アーサーさん……」

なんの飾りも無いシンプルな指輪だけれど、月明かりが反射してとても輝いて見えます。

よく見ると小さなリングの内側には「Arthur to kiku」と小さな文字で彫ってあって 試しにはめてみると測ったように私の薬指にぴったり。

「丁度いいみたいです」

「そ、そうか。それはよかった」

私の言葉に心底ホッとしたような表情をするアーサーさん。彼の気持ちが純粋に嬉しくて、私はアーサーさんの腕を引くと少し背伸びをして彼の頬にそっと口付けた。

「おまっ、なっ!?」

「ふふ、お礼です」

「……っ、誕生日、おめでとう……それと、これからもよろしくな」

「――はい」

同盟を組んだあの日のような満天の星空の下、私達はもう一度深く唇を重ねた。

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