お酒はほどほどに 7
一体、何時の間に眠ってしまったのでしょう? 目を開けると既に日は高く昇っていて鳥達のチュンチュンと言う囀りが穏やかに響いていた。
眠ってしまったと言うより、意識を失っていたと言う方が正しいのかもしれません。
「……腰、痛い」
起き上がろうとして、ずくずくと痛む腰に顔をしかめる。夕べは結局、途中から数えるのが嫌になるくらい何度も抱かれてしまいました。
心なしか喉も痛いし、全身が筋肉痛になってしまったかのようにだるい。
それもこれも、全てあの人の所為。
「よぉ、よく寝てたな」
ガラリと戸が開いて、スッキリとした表情のアーサーさんが顔を出した。風呂にでも入って来たのか着崩した浴衣にタオルを頭から被っている。
「お前も風呂入って来いよ。朝風呂ってのはいいもんだぞ」
「……そうですか。でも私、起き上がれないんです」
「え?」
「誰かさんが朝方まで激しくするので、腰痛が酷くなってしまいました」
キッと睨みつけると、思う所があるのかアーサーさんは引き攣った笑みを浮かべた。
「は、ははっ。そうか、それは悪かった」
「その言い方。悪いと思っていないでしょう!?」
「いや、悪いとは思ってる。実は……菊の家で飲み直してた所までは覚えているんだが、途中から全く記憶が無くて……」
アーサーさんはポリポリと頬を掻きながら恐ろしい事実を口にする。
アレだけヤっといて、覚えて無いって……。
「……アーサーさん」
「な、なんだ?」
「本当に悪いと思っているのなら、しばらくお酒は控えて下さいね」
「あ、ぁあ」
一瞬身構えたアーサーさんににっこりとそう告げると、ホッとしたのかほんの少し肩の力を抜いた。
「それと、私……昨夜の行為で一年分の性欲を使い果たしたようなので、今年一年間は私に触れる事を禁止します」
「なっ!? なんだよソレ! 一年て、長すぎだろっ」
「私、人より回復するのに時間が掛るんです」
抗議の声を上げていたアーサーさんだったが、私の笑顔が余程怖かったのか言葉に詰まった。
「ちっ、わかった。でも一年は長すぎだ。せめて半月にしてくれないか」
「半月? 半年なら考えてもいいですが半月は短すぎます」
「……じゃぁ一カ月! それ以上だと俺が我慢できねぇ」
眉を寄せ、本気で切羽詰まった顔をするアーサーさんが可笑しくて、思わず苦笑した。
私にとっては一カ月なんて大したことじゃないんですが。
「わかりました。禁酒を守ってくれるのなら一カ月で手を打ちましょう」
「マジで? 一カ月か……ちょっと長いような気もするが一年より全然マシだぜ。今日一日俺が飯作ってやるから菊はゆっくりしとけよ!」
「えっ? いいですよそんなっ。お客様に作って貰うわけにはいきませんから……っ」
起き上がろうとして、再び腰の痛みに苛まれがくりと布団に突っ伏する。
「気にすんなって。お前がそうなったのは俺の所為だからな。責任はちゃんと取らせてくれ」
「アーサーさん……」
アーサーさんの料理に若干、いえ。かなり不安はあるものの、取り敢えず反省はしてくれているようなのでお言葉に甘える事にしましょうか。
それにしても、普段通りのアーサーさんに戻って本当に良かった。今後は出来るだけ、お酒の席でアーサーさんと一緒にはならない方がよさそうですね。
台所へ向かうアーサーさんの後姿を眺めながら、私はそう心に誓った。